自然の中のマリィ~マリィの初恋~
第1話 冒険の始まりはモロコシスープより熱く
「はあ…」
この日も空も山も大地も流麗かつ荘厳で、マリィはため息をついた。
誰もがため息を付くような美しい金髪碧眼をしたマリィは、胸もかなり大きいので一見モテそうな派手な身体をした女性だ。
この寺院の様式なのか頭にはちょっと幼稚なデザインの十字架がついたヘヤーバンドをしている。
マリィは自然豊かな広大な大地にある寺院で神官として働いている。
マリィはここで産まれ育った。
お決まりのように寺院の入り口に捨て子にされていたクチだ。
勉強はそこそこ出来るが読書はあまり好きではない。
読むのはいつも女性が主人公の冒険物だ。
そして周囲にいるいつか王子様が的な友人を殴り倒したい気持ちを抱えて生きて来た。
はっきり言ってマリィはこの環境に飽きたのだ。
この寺院を飛び出して冒険者になりたい気持ちも決意もマリィには十分あった。
しかしながら赤子の自分を育ててくれた寺院の諸先輩方にどうしても遠慮してしまうのだ。
このまま自分の心が寺院という牢獄に閉じ込められてしまうのかと思うとため息しか出なくなる。
「おい! みんな来てくれ怪我人だ!!」
マリィは自室のテラスから声に振り返り駆け付ける。
どうせまたコボルドが仕掛けた罠に嵌った地元民だろうと思いきや事情が違った。
怪我人達はかなりの人数に登っていた。
「え…どうしたの皆さん!」
マリィは思わず声が出た。
怪我人達は平和なこの大地には似つかわしくない冒険者だった。
冒険者達が言うにはこの辺りに太古の魔王が秘宝を隠す為のダンジョンがある事が解ったそうだ。
マリィの寺院にいる古くからの役職の者もまさかと声が出たが、古式魔法化学の学者がやっと数式を解明したそうだ。
それで秘宝のありかが解ったとの事だった。
マリィは自分の体内での血のざわめきを隠せなかった。
得意のモロコシスープも回復の秘術も冒険者達が誰か自分を気に入ってくれないかと思いつめ、まるで初恋をした王子様が声を掛けてくれないかと待ち望んでいるようだった。
それはまるでマリィが殴り倒したかった友人達そのものと言えた。
「おーい。お姉ちゃん!」
マリィは思わず恋心を寄せている人を見る目で声のありかを探す。
そこにはちょっと年下そうな背の高い男性がいた。
身なりをみると流儀は解らないが格闘家のように見える。
「冒険者って興味ない? 君のモロコシスープはうちのパーティに必要だからね」
マリィは全身の肌が高揚するのを感じた。
「はい…私で良ければぜひ…」
それはマリィにとってこの寺院という牢獄から出るための大切な恋の始まりにも感じた。
『美しい』
マリィに会った時の第一印象はそれしかなかった。
でも一目で解ったよ。
『マリィという女もイツキが好きだ』
またぼくじゃない。
ぼくじゃないのは何故なんだ…。
「イツキ、良い子を見つけたね」と黒髪混じりの男性が話しかける。
「ぼくはニガヨモギ。このパーティでは魔法使いとしてやってる」
イツキと呼ばれた男性は、「そう俺の名前はイツキ! マリィよろ!」とマリィの肩をぽんと叩く。
「私は料理が苦手だから、この子には期待できそうね。」
無骨な身体をした少々年の行った女性戦士もマリィに話しかける。
「私はカーサン。よろしくね」
カーサンは眼鏡をしている目の奥が優しそうで、マリィは安心感を持った。
そしてニガヨモギはイツキに「しかしパーティにこんな怪我をさせて、パーティリーダーとしてはどうなんだよ」とダメ出しした。
「お前はリーダーなのにいつも考えが甘い。俺たち弱小パーティだろう」
イツキは「ニガヨモギはいつも俺にキツいなあ…」と苦笑い。
ニガヨモギはこう言う。
「今のぼく達にはこの太古の魔王の秘宝は早すぎる。難しいダンジョンだし、他のパーティに取られる事はないだろう。後回しにしても構わないはずだ」
冒険がまだ解ってないマリィはこくこくと目を輝かせながら頭を下げる。
それをして笑うカーサン。
メーテルは「まずマリィを育てないとね。マリィは太古の魔王の秘宝を狙う為の重要なメンバーになるから」
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