沈む

月寧烝

その尾びれ

「皆さん、おやすみなさい」


長いツタの階段をすぎると僕の部屋。

ふかふかのベッドに飛び乗った。


ふかふかのベッドは僕の体重の分だけ沈む。


お外は真っ暗で宝石のよう。


見慣れた天井。

目を瞑り、スヤスヤと眠る。



ブオォォォォォーーーーーン



クジラの声だ。


見慣れた天井から、大きなクジラが僕めがけて突進してくる。僕は布団を蹴飛ばしクジラをよけた。


「こんばんは、クジラさん」


当然クジラは僕の言葉が分からないが、今日も目を合わせて挨拶をした。


僕は泳ぎ去るクジラに掴まって、深海への旅に出る。


力強く深海へと泳ぐクジラにしがみついた。


深海は僕が見たこともない生き物でいっぱい。

イルカの群れを横目に深海へと潜る僕たち。


「あっ!流れ星だよ!」


僕は海の底に流れる星を指差し、クジラに教える。

どことなくクジラも楽しそうに目を細めたように見えた。


二人は、チョウチンアンコウの流れ星に願い事を三回唱えた。



海底では石になったヒトデの長老の周りに嘆く生き物たちがあふれる。



「僕がかわりに死んでもいいのに…」


僕の言葉が聞こえているのかいないのか、石が揺れた。周りの生き物たちは僕らを見る。



キュゥォーーーン


クジラが泣いた。僕も何故だか涙が止まらない。

僕は何故そんなことを言ったのだろう。



僕たちはその場から逃げるように更に深海へと泳いでいった。




「海の中だから泣いても分からないね」


僕たちの涙で今日も海水は増える。



いつしか海底からまばゆい光が溢れた。

それでも僕らは深海へと泳ぐ。


朝焼け色の光は僕らを包み込んだ。

僕らの涙はここぞとばかりに光を反射させて弾けた。



バサンッ


僕らの真横を鳥が羽ばたいた。


飛行機を横目に僕らはどんどん深海へと泳いだ。



ホウキで飛ぶお姉さんが今日も僕たちに手をふっていた。




ブオオオォーーーーーン


「お日様のいい匂いがして、あったかいね」

僕はクジラの言いたいことが分かった。



僕らは落ちているのか、泳いでいるのか、


まだまだ深海にはたどり着かない。






前方に米粒ほどの大きさの僕のベッドが見えた。




「またな」


僕は手を離した。


クジラは僕のベッドを通り過ぎ深海へ、どんどん小さくなっていく。



僕は一人でベッドへダイブした。




少しして僕を起こしにきたお月様。


「もう綺麗な朝が見えますよ」



「おはよう、お月様。バイバイ」


お月様の姿は透けてゆき、太陽の光がベッドに射し込んだ。




「僕も尾びれが欲しいな」





"僕が覚えてるよ。二人だけの約束だ"


今日も何処からか優しい声が聞こえた。




今日も一日が始まった。

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沈む 月寧烝 @Runeshow

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