42:先輩とお散歩
「ねぇ真田くん、今日はいい天気だし、一緒に病院の中を散歩しない?」
雲一つない晴天の日。今日も先輩のお見舞いに行くと、先輩からそんな提案をされた。確かに、今日は散歩をするにはもってこいの日だ。
「いいですね。でも先輩、外に出て大丈夫なんですか?」
「うん、多分大丈夫だと思うよ。大きな怪我もしてないし、最近ずっとベッドの上だから身体がなまっちゃったんだよねー。医者からも病院の中を散歩するぐらいなら大丈夫だよって言われてるし!」
「じゃあ行きましょうか……え?」
「でもねー、まだ私一人じゃ立ち上がれないかも〜。真田くん、手を貸してくれないかな?」
先輩はちょっぴりいたずらな笑みを浮かべながら、俺に手を差し伸べる。ああ、こういうからかい上手なところは変わらないんだな、先輩。以前までの俺ならきっとこれであたふたしまくって、先輩に面白がられるだけだったんだろう。
でも、もう俺は腹をくくっているから。
「はい、わかりました。それじゃあ、一緒に手を繋ぎながら一緒に散歩しましょう」
「うん、それが…………え? い、一緒に手を繋ぎながら!?」
「先輩に何かあったら遅いですから。それに、俺は先輩と一緒に手を繋いで一緒に歩きたいです」
「ええええええええええええええ! さ、真田くん本当に大胆……わ、私顔が焼けちゃうよ」
「それぐらい先輩のことが好きですから。もちろん、先輩の嫌がることはしたくないので嫌だったらちゃんと断ってもらっていいです」
「い、嫌じゃ……ないよ。むしろ、そうしてほしいなって気持ちは……私だってあるもん」
「よかった、じゃあ行きますか」
「……うん!」
差し伸べられた先輩の手をとって、俺はそれをぎゅっと優しく握りしめる。そういえば、先輩の手を初めて握ったのは一緒にお風呂にいった帰りに、ナンパ野郎から逃げ出すために繋いだ時か。あの時はもう無意識にやっちゃったから手の感触なんか全然覚えていないけど……先輩の手、あったかくて優しい感じがする。
「ね、ねぇ……真田くん?」
何やら恐る恐る、先輩が何か聞こうとしてきた。あ、あれ、もしかして俺の手に問題があるとか!? あ、汗かいてるとか、触り心地悪すぎとか!?
「ど、どうしました?」
「わ、私の手……握ってて平気? あ、汗とかかいてないかな? あ、あと触り心地は大丈夫?」
「……ふふっ」
ついつい笑いがこぼれた。だって、俺が心配していたことを先輩も同じように考えていたんだから。そんな風にあたふたする先輩が可愛くて、面白くて、そして安心して、俺は広角が上がり続けていた。
「な、なんで笑ったの真田くん!?」
「俺も同じことを心配していたので。大丈夫ですよ、先輩の手は汗もかいてないですし、握っているととっても心が安らぎます。俺の方こそ、問題ないですか?」
「全くないよ! わ、私だって真田くんの手を握ってたら……すごく落ち着くし、ずっと握っていたいって気持ちになるし、そ、それに……」
「それに?」
「こ、これは言えない!!! い、いこ真田くん! いざ前進だー!」
「先輩、駆け足しちゃ危ないですよ!」
何かを誤魔化すように、先輩は俺の手を引っ張って歩き出す。一体何を誤魔化したのか気になるけど、先輩が元気そうで何よりだ。これならきっと、また一緒にバイト先で働ける日も、一緒に外で遊びに行ける日も遠くないはず。そう思えたから、少し涙がこぼれそうになったのは……絶対、先輩には言わない。
「でも先輩、ここの病院結構広いですね。中庭もありますし」
「ねー、すごい病院に運ばれちゃったよ私。でも中庭があってよかったぁ。あー、日の光が気持ちいいー!」
しばらく病院の中を歩いたのち、俺たちは中庭のベンチで座りながらポカポカ温まりながらのんびりひなたぼっこをしていた。こうやってのんびりするの、あんまり自分からしないからある意味新鮮だ。
「ほんとですね、このまま眠っちゃいそうです」
「ほんとほんと。ねー真田くん、このまま真田くんの肩を枕にして寝ちゃってもいい?」
「ああいいですよ。どうぞどうぞ」
「ふぇ!? は、恥ずかしがる真田くんを見れると思って言ったのに、そ、そんな大胆に受け止めちゃうの!?」
「だって俺、もう先輩の前で大好きですとか言っちゃったんですよ。もうそれぐらいじゃ動じないですって」
「そ、そっかぁ……。なら真田くん、今この場で私が君のことを抱きしめたら恥ずかしがってくれる?」
「ええ!? な、何を言ってるんですか先輩……」
「あ、恥ずかしがってる〜♪」
「あ……せ、先輩!!!」
うまいこと先輩にやられて、ちょっとした恥をかいてしまった。クッソぉ……まだまだってことなのか俺は。
「ふふーんだ。あ、あそこの花綺麗! ここからだと綺麗に見えるねぇ」
「本当だ。でも先輩の方が綺麗です」
「ふゃ!? な、なんて大胆な攻撃……」
「俺だってやるときはやるんです!」
「なら私だって———」
それから、俺たちは互いのことをあれこれ褒めあったり、からかいあったりした。どうもまだまだ俺は先輩のことを好きだと宣言したにも関わらず、恥ずかしがってしまうことも何度かあるらしく、己の未熟さを痛感させられる。
そして、本当にその日はポカポカ陽気で太陽が睡眠を誘ってくる日だったから。
「あれ、真田くん……寝ちゃったの?」
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