38:先輩にとことんアピールします
先輩が事故に遭ってしまってから翌日。俺は先輩のお見舞いに行くためにまた病院へ向かった。怪我とかは大したことなかったみたいだけど、まだまだ大事を取る必要があるってことで先輩はしばらく入院することになったらしい。だからこそ俺は毎日お見舞いに行くことにした。出来るだけ先輩と一緒にいる時間を増やしたいから。
「先輩、こんにちは」
「あ、真田くん。ありがとう、わざわざきてくれて」
病室に入ると、先輩はニコッと笑いながら俺を出迎えてくれた。様子を見るに先輩の体調は大丈夫そうだ。事故にあった翌日に急変するってこともあるらしいから、その心配がなさそうなことがわかってよかった。
「これ、差し入れです。これは俺が買ったりんごで、これはカタリナが持たせてくれたお菓子ですよ」
「カタリナ……?」
「あ」
そうか、先輩は俺のことを忘れてしまったってことは、俺のつながりで関わったカタリナのことも覚えていないのか。仕方がないこととはいえ、やっぱり一緒に遊んだあの日のことも先輩が忘れてしまったのは正直寂しい。
「カタリナは俺の…………まぁ、友人みたいな人です」
彼女ってことにしてたけど、昨日先輩のことが大好きっていった以上、もうそんな嘘をつく必要もないか。
「そっか。……ごめんね、本当に真田くんのこと何にも覚えてなくて」
「謝らなくていいんです! これから一緒にまた思い出を作ればいいんですから。さ、りんご食べてください!」
「ありがとー! あ、可愛いうさぎさんのりんごだね。もしかしてこれ、真田くんが作ってくれたの?」
「は、はい!」
「すごーい! 可愛いからついつい見入っちゃうよ〜」
差し入れのりんごを入れたパックを開けて、うさぎ風に皮を切ったりんごを先輩がみると、目をキラキラさせてくれた。初めてこんなことしたから、youtubeで動画を見ながら何個か失敗しちゃったんだけど……先輩に喜んでもらえてよかった!
「味もしっかり美味しいですよ!」
「うん、食べてみるね。……美味しい!!! 真田くん、私のためにこんな美味しいりんごくれてありがとう!」
「ど、どういたしまして」
目をキラキラ輝かせながら、天使のような笑みを先輩は俺に向けてくれた。ああ、やっぱり先輩は可愛い……本当に……
「可愛い……」
「ふぇ!? さ、真田くん!?」
「あ!?」
つい俺の本音がポロッと漏れてしまった。すると先輩は急激に顔を赤くしながらあたふたとし始めた。な、なんでこんな本音を我慢できなくなってしまったんだ!? もしかしたら昨日ありったけ本音を吐露してしまったから……もう自分でも歯止めが効かなくなってしまったのか!?
「か、可愛いだなんて……さ、真田くん本当に大胆だねぇ」
「先輩にしか言わないですから! だって俺は本当に先輩のこと可愛いと思ってるし、好きですから!」
「ふわああああああああああああああああああああああああ!? さ、真田くん……ど、どうしてかわからないけど今の私、すごい心臓がドキドキして身体が熱くなっちゃうから一旦ストップ!」
「ご、ごめんなさい!」
口元を隠しながら、顔を赤りんごのように真っ赤にした先輩に止められたので、俺も慌てていうのをやめた。ああ、自分の中のリミッターが解除されたから以前だったら先輩に言わないようなことも言ってしまう。
「迷惑……でしたよね。またいきなりこんなこというなんて」
「それはないよ! だ、だって私……ど、どうしてかわからないけど、す、すごく嬉しいっていうか……と、とにかくもっと言ってほしい気がするの! だからもっと……真田くんの私が好きって気持ち、伝えてほしいな」
「せ、先輩……!」
土屋先輩本人からそう言ってくれたら、もう自重する必要もないのかとすら思えてきた。い、いやここはあくまで病室だし、他の人の迷惑になるから抑える必要があるのは当然なんだけど。でも……先輩から、好きって気持ちを伝えてほしいと言われたのは……正直、めっちゃ嬉しい。
「お姉きたよ。あ、真田くんもきてたんだ」
「ちひろさん、こんにちは」
「こんにちは。お姉のためにお見舞いにきてくれてありがとうね」
「いえいえ、俺が勝手に来てるだけですから」
病室の扉がガラガラと開いて、部屋の中にちひろさんがやってきた。せっかくなのでしばらく軽ーい世間話をしていたら……。
「…………真田くん! わ、私にりんご食べさせてくれないかな?」
頰をぷくーっと膨らましながら、先輩が俺の服を軽く引っ張ってきた。
「え? ど、どうしたんですかいきなり」
「い、いいから食べさせてほしいの!」
「い、いいですよ。はい先輩、あーん」
「もぐもぐ……うーん、真田くんのりんご美味しい!」
「え? も、もうこんな仲良しに……はっ!? ま、まさかこの病室という密室で……え、えっち! エッチ! エッチエッチエッチエッチ!」
「な、何を言ってるんですかちひろさん!?」
「真田くん、もう一個食べさせてほしいなぁ〜」
先輩一人しかいない病室でよかったと思うぐらい、少し先輩の家に泊まらせてもらった時みたいな賑やかな空間になった。忘れてしまっても、こんな楽しく過ごせることが……なんだか、すごく嬉しい。
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