39:あの時の幸せな写真を見ても……
「よぉ先輩さん、お見舞いに来てやったぞ」
「先輩、こんにちは。今日はカタリナも連れてきました」
今日の先輩のお見舞いにはカタリナを連れてきた。本人が「私のことを忘れるだなんて先輩さんは失礼なやつだな。直接顔を見せに行って嫌でも思い出させてやる」なんてことを言って有無を言わせずについて来たんだけど。
でももしかしたら先輩が直接カタリナのことを見れば記憶を取り戻すきっかけにもなるかもしれない。そんな淡い期待を持ちながら、今日のお見舞いにやって来た。
「こんにちは、真田くんと……カタリナさん? ごめんね、やっぱりカタリナさんのことも覚えてないや……」
「そうか、それは本当に残念だな。私たちはヨシトを取り合って殴り合いの血闘をした、いわば永遠のライバルみたいなものだったってのに……」
「え!? わ、私とカタリナさんそんなことしてたの!?」
「してないですから安心してください! カタリナ、先輩を混乱させるようなことを言うんじゃない!」
「むぅ……これぐらいの荒治療をしてもいいと思うが」
「よくないっての! しかも嘘じゃないか! 全く……」
相変わらずカタリナは記憶喪失の先輩の前でもらしさ全開で、ある意味安心ではあるけど……先輩、本当にカタリナのことも覚えてないんだ。俺と関わりがあったことすべて忘れちゃったんだって思うと……やっぱり、心にくるものがどうしてもある。
「でも不思議。カタリナさんのことも、真田くんのことも覚えてないのに……なんだか、みんなで過ごした楽しい思い出がある気がする。写真とか、あるのかな?」
「ああ、それなら先輩さんのスマホにもいくつか送ったはずだぞ。もしかしてみてないのか?」
「え? 昨日の夜見てみたけど、真田くんとのツーショットしかなかったよ?」
「え?」
「Oh、記憶喪失になる前の先輩さんは三人で撮った写真は不要だったってことか」
待て待て、確か最後に三人で写真を撮った気がするけど……うん? そういえばカタリナにツーショットの写真を何回か撮られていたような……。
「い、いやいやカタリナさん、たまたまスマホの不具合で保存できてなかっただけだと思うよ!」
「そ、そうだカタリナ。流石にそんな気がするぞ!」
「まぁそう言うことにしておこう。だが先輩さん、ヨシトとのツーショットを見ても何も思いつかないのか? 先輩さん、その写真を欲しがって……いや、これは尊厳のために言うのをやめておこう」
「おいカタリナ、一体先輩は何をしたんだ!」
「それはヨシトの前じゃ言えないな」
「くっ……」
先輩が俺とのツーショットを欲しがって何をしたのか、俺としてもめちゃくちゃ気になる。でも先輩のプライバシーってものがあるから聞くわけにもいかないよな……あああ、でも気になる!
「……何回もツーショット写真は見たよ。と言うか、スマホの壁紙になってたからすぐ目についたんだけど……」
「え」
俺とのツーショット写真が先輩のスマホの壁紙に? それぐらい、俺のことを大事に思っていてくれたってことなのか、記念にそうしてくれたのか……クッソ、早くその真意を聞きたい。
「でも、何も思い出せなかったの。絶対、この時の私は楽しくて、幸せだったんだなってのはわかったの。だけど……全然、真田くんと何をしたのかも思い出せない……」
先輩は少し涙目になって、寂しそうな表情をしながら申し訳なさそうにしていた。もしかしたら、先輩な何も思い出せない自分に責任を感じているのかもしれない。そんな必要、全くないのに。
「気にしないでください! これから楽しい思い出を作っていけばいいんですから。退院したら、また一緒に三人で遊びに行ったりしましょう!」
「……真田くんは本当にポジティブだなぁ。うん、そうだよね! 私もくよくよしてちゃだめからね。そうだなぁ、退院したら……美味しいもの食べに行きたい!」
「いいですね! そうだ、俺この前色々と調べてて……」
それから、俺たちは退院した後どこに行くか色々話し合った。三人で行った中華料理屋にまた行きたいなー、とか、イタリアンもいいよなーとか、あれこれ想像を膨らまして、どうやって楽しく過ごそうか、笑い合いながら。
「それじゃあ、そろそろ俺たちは帰ります。先輩、また来ますね」
「うん、楽しみにしてるね! カタリナさんもまた来てくれたら嬉しいな!」
「ああ、また来るぞ。今度は私厳選の神ゲーをいくつか持ってきてやろう」
「わぁ、それは楽しみ! じゃあみんな、バイバイ!」
そして日も暮れ始めたので、俺たちは先輩の病室を後にした。
「……なんで思い出せないんだろう。真田くんと過ごした時間、私だって知りたいのに」
「どうしたら思い出せるんだろう……何かいい手段は……」
「あ。もしかしたら……ネット掲示板で意見を募れば、いい意見をもらえるかも! よし、善は急げだ!」
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