35:今日は先輩のお誕生日
ついにくるべき日が来てしまった。そう、今日は土屋先輩のお誕生日。俺はこの日のためにあれこれ準備をしてきたわけだが……ああ、めちゃくちゃ緊張する。心臓が今にも破裂しそうなぐらい落ち着きがない。
だけどそんな弱音をいつまでも言っている場合じゃない! 俺は覚悟を決めたはずだ。先輩にちゃんと自分の思いを伝えるって!
「ふーっ……」
俺は駅前のベンチに座りながら、一呼吸整えて身体を落ち着かせる。それでもまだまだ身体は正直に震えているけど、それはもう頑張って誤魔化すしかない。先輩の目の前で震えるんじゃないぞ、俺の身体。
でも、今日は珍しく先輩が待ち合わせ時間に来ていない。いつもなら予定していた時間よりも早く来ることが多いから、今日もそうなんじゃないかと思って1時間ぐらい早く来たけど……。おかしいな、先輩なら遅刻しそうになったらすぐに連絡くれそうなのに。
「でさー、この前話した年下の彼氏いたじゃん」
「ウンウン、どうしたの?」
そわそわしながらベンチで先輩のことを待っていたところ、女子大生っぽい二人組が近くでだべり出した。先輩が来ない限り、他にすることもないのでこっそり話しを聞いてみるか。先輩が何を考えているのかの参考にもなるだろうし。
「いやー、やっぱ別れることになっちゃったわ。顔とかすごい好みだったんだけどねー、流石に高校生は子供すぎたわー」
「えーまじ? あんた年下だから可愛くてたまらないとか言ってなかった?」
「それがねー、飽きちゃったんだよね。ずっと一緒に過ごすとなるとまた話は変わるんだなーって身をもって知ったわ」
……。話を聞いていたら今の俺にはなかなか痛いところを言ってくるじゃないか。そうか、女子大生には高校生は子供すぎる……いやいや、それは俺がこれから大人っぽくて男らしいところを見せていけばきっと大丈夫なはずだ!
「やっぱ男はイケメンで細マッチョの高身長、あと金持ってる社会人に限るわ。ほら見てこれ、最近付き合った彼氏からもらったのー」
「あっははは! もう彼氏新しく作ってんのとかウケる〜。あ、だからこの前までつけてた元カレからもらったアクセサリー外したんだ!」
「うん、お母さんにあげたわ。いらないし」
ぐはぁ!? き、きっと俺の同年代であろう元カレさんが精一杯あげたであろうプレゼントをさらっといらないしと言って赤の他人にあげた……やばい、人事なのに心臓がぐさっと何かにえぐられている気分になるぞ。
い、いやいや待てよ俺。土屋先輩はきっとそんなことをするような人じゃない! こ、この人がただ単に非道なだけで……。
「まぁそうするよね。私も元カレにもらったプレゼントだいたい誰かにあげてるか捨ててる。てか付き合ってた時にもいらないなーって思ってメルカリで売ったりしてたし」
「いやーわかるわかる。結構プレゼントとかメルカリとかで売っちゃうよね。やっぱ物より金だよ金」
うわあああああああああああああああああああああああああああああああ! こ、これから土屋先輩に告白した時に渡そうとしていたプレゼントも……。
【うわー、こんなプレゼントいらないなぁ。よし、メルカリで売っちゃおう】
とか言われて出品されていたら……俺は余裕で死ねる。いや、もうすでに他人事なのにどうしてかメンタルがやられまくりだ……。
「やっぱ私も今の彼氏捨ててあんたの彼氏みたいな人と付き合いたいなぁ。今度その彼氏の友達紹介してよ」
「オッケー、そしたら今日はたくさんおごってね」
「えー、あんまり高いもの頼まないでよ。あ、バスきたから行こっか」
そうして女子大生たちは間接的に俺に精神的ダメージを何度も食らわせたのちにバスに乗って行った。いや、勝手に話を聞いていた俺が悪いんだけど……はぁ。こんなので俺、大丈夫なのかなぁ……。
でも、先輩全然来ないな。ラインのメッセージを見ても全く連絡がないし、何かあったのかな? そ、それともさっきの女子大生みたいにイケメンで細マッチョの高身長、あと金持ってる社会人を見つけて……
【真田くんなんか放っておいてこの人と遊んじゃおーっと!】
なんてことに……いやいやいやいや! せ、先輩はそんな人じゃない! そうだ、そんな展開には絶対ならないはずなんだ!
「あ、電話だ。ん、なんだこの番号? もしかして先輩、スマホを落としたのかな」
勝手に一人であたふたしていたところ、ふとスマホが鳴り出した。電話番号に見覚えはなかったけど、もしかしたら先輩からかと思って、俺はすぐ電話に出た。
だけど、かけてきたのは先輩じゃなくて。
【さ、真田くん!? さ、真田くんだよね……!】
「あれ、ちひろさん? どうしたんですか?」
【お、おねぇが……お姉が! こ、交通事故に……】
「………………え」
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