34:そろそろ素直になる時じゃないか?
「なぁヨシト、気づいたんだがもうすぐ先輩さんの誕生日なんじゃないか?」
「え?」
家でカタリナに半ば強制的にゲームに付き合わされている最中、ふと唐突にカタリナがそんなことを言い出した。い、いやいやどうしてカタリナが先輩の誕生日を知っているんだ……!?
「ほら、ラインのここにもうすぐ誕生日の近い人が表示されるだろ。ここに先輩さんがいるぞ」
カタリナが俺にスマホの画面を見せて、それを見せてくれた。
「ほ、ほんとだ……。全然そんなところ見てなかったから気づかなかった」
「全く、ヨシトはそれだから私にゲームも負けて先輩さんとも付き合えないんだぞ」
「うっ……って! な、なんで先輩と付き合うとかいう話になるんだよ!」
「ん? いやヨシト、お前が先輩さんのことが好きなことぐらいこっちはわかってるから。まさかこの私に隠し通せるとか思ってたのか?」
にまぁっと笑いながらカタリナはべしべしと背中を叩いてくる。でもそりゃそうだ。常に一緒にいて、かつ勘のいいカタリナが俺の気持ちに気づかないわけがない。
「まぁお前が見栄っ張りでどうしようもない駄目男なのはよく知っているが、そろそろ先輩さんに気持ちを伝えたらどうだ? 誕生日なんて絶好の機会だろ?」
なかなか酷い言われようだが、こいつのいっていることは何も間違っていない。それに誕生日が絶好の機会だってのもその通りだ。で、でも……どうしても俺は一歩踏み出す勇気を持つことができない。
「い、いやだって……せ、先輩は別に俺のこと男として見てるわけじゃないだろうし……」
「自分に自信がないだけだろ?」
「……ああ、そうだよ!」
本当にカタリナは俺が思っていることをズバズバと当ててくる。そうだ、俺は先輩と今の関係が壊れてしまうのがすごく怖い。もし告白して、フラれてしまったら? きっと先輩と気まずくなって会えなくなってしまうはずだ。
それに、俺は変な見栄を貼って彼女がいるふりをしてしまったから……。真実をいえば、先輩は俺に幻滅するに違いない。だからもう、俺はどうしたって先輩と付き合うことなんかできっこないんだ……。
「AHAHA! 本当にお前はどうしようもなく女々しい奴だな! いっそ男らしく当たって砕けてみたらどうだ?」
カタリナは大笑いして俺のことを盛大に煽り散らかす。でも、そうされたって仕方ないぐらい今の俺はすごく情けない。自分だってそう思う。それに当たって砕けてしまったら、それこそ俺と先輩との関係がぶっ壊れて二度と会う機会がなくなるだろう。どうしてもそのリスクが頭をよぎって、行動できる気がしない。
「そ、そんなことしても……」
「ああそうか。なら先輩さんには私が厳選した極上のイケメンを紹介してみるか」
「は?」
俺は唖然とした。だって、いきなりカタリナが先輩にイケメンを紹介するって言いだしたんだから。こいつは男にモテるだろうから、イケメンの知り合いだって多いのかもしれない。だとしたら、先輩が好きになってしまうような人を紹介することも……。
「誕生日記念に彼氏をプレゼントするってのも悪くないだろ? いやー、きっと二人が会えばすぐ意気投合してあっという間に付き合って——」
「そ、そんなの絶対嫌だ!」
せ、先輩が他の男と付き合うだなんて絶対に嫌だ! そりゃ顔に関しては劣ってしまう部分があるかもしれないけど。俺の方が絶対に先輩のことが好きだ! それに、絶対幸せにしたいって気持ちも大きいはずだから、そんなこと絶対許さない!
「ならさっさと付き合え」
目をギラリさせて俺を睨むように鋭い視線を送りながらいってきたカタリナのその一言は、俺の心を動かすには十分すぎた。その通りだよ……ああ、きっとカタリナは俺に喝を入れるために言ってくれたんだな。
「うっ……い、言われなくてもするっての! た、誕生日に行くべきおしゃれなお店は……あああ、たけぇ……こ、ここなら……!」
「……(あー、本当にこいつは先輩さんのことが好きなんだなぁ。ま、ヨシトが一番の幸せを掴むのがベストか。絶対幸せになれよ、ヨシト)」
カタリナに焚き付けられるような形で、俺は先輩の誕生日を祝うためにあれこれ準備を進めて、そして——
【先輩の誕生日お祝いしたいので、今度ここにいきませんか?】
指先をプルプル震わせながら、先輩にラインのメッセージを送ったのだった。
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