29:観覧車の中でいいようにされる


 ゲーセンでやらかして失念している俺だが、失敗にいつまでもくよくよしている時間はなかった。だって次に先輩が俺たちを連れて行ってくれた場所は……。


「いやー、やっぱり観覧車は近くで見るとすごく大きいねぇ〜」


「か、観覧車に乗るんですか!?」


 そう、観覧車だった。べ、別に俺は高いところが怖いわけじゃないけど、先輩とカタリナの三人で密室に入るのは少々気まづいというか……。うん、怖いわけじゃ断じてない。


「ほー、なかなか面白そうじゃないか。おいヨシト、早速乗るぞ」


 カタリナはウキウキしながら今すぐにでも観覧車に乗りたそうにしている。まぁ、こいつの性格からして好きそうだもんなぁ。で、でも俺はなかなか乗る気分にならない。乗らずに済むのであればぜひそうしたい。


「え、や、やっぱり乗らないとだめ?」


「うん? ああ、怖いなら無理に乗る必要はないぞ。でもそうか、ヨシト。お前……」


「こここ、怖いわけがないだろ!」


 嘘ですちょー怖いです! 昔からどうも俺は高いところが苦手で、歩道橋ですらゆっくり歩かないと進めないし、下なんか当然見ることができない。もちろんそんなカッコ悪い事実は先輩に言ったことはなく、その事実を知らないはずだ。ああ、本当にイヤだ……今すぐに逃げ出したい……。


「あれ、もしかして真田くん高いところが苦手だった?」


「ち、違いますよ! こ、こんなのへっちゃらに決まってますからね、あっははは! ち、チケット取りましょう!」


 でもまた先輩にカッコ悪いところなんか見せたくないので、俺は覚悟を決めて観覧車に乗ることにした。ま、まぁ高いところが怖いって言っても所詮観覧車、落ちることとかほぼないだろうし、下をなるべく見ないようにすれば電車の中にいるようなものだろ? ヘーキヘーキ、どんと来いってもんよー!!!


「あれ、真田くん震えてる?(ああもう観覧車が怖くて震えてる真田くん可愛すぎて抱きしめてよしよししてあげたい……いや、もうこれは私の溢れ出る母性で包み込んであげるべきでしょ……!)」


「ヨシト、お手手繋ぐか?(本当にヨシトと一緒にいると飽きないなぁーAHAHA)」


「ふ、二人とも気のせいじゃないですか? ほら、来たんで乗りましょう!」


 それから俺たちは三人一緒に観覧車に乗った。密室がじわじわと上昇していくこの感覚がめっちゃこわ……違和感があるんだけど、俺はそんなことに屈せず優雅に景色を堪能しようとした。目を閉じてるからイマジナリーなんだけど。


「大丈夫だよー真田くん。大丈夫ー♪」


 だけど、なぜか俺の隣に座っている先輩は震えている俺の手をギュって繋ぎながら、耳元で俺を安心させようと囁いてくれた。それで俺は安心……するどころかむしろ心拍数は上昇して、余計ドキドキする羽目に。ああ、先輩にこんな近くで、しかも密室で囁かれて平気なわけがないだろ!


「いやー、今日は本当にいい写真が撮れるなぁ、ヨシト」


「しゃ、写真を撮るんじゃないカタリナ!」


 さらに正面にいるカタリナにはこの恥ずかしいところを写真に撮られる始末。今日はとことんいいようにやられるな俺……。


「でも真田くん、本当にいい景色だから一回だけ見てみて」


「い、いや……そ、その……」


「大丈夫。私はずっと君のそばにいるから」


「……わ、わかりました。じゃあ……」


 恐る恐る、目を開けて外の光景を見る。すると、そこには色んなビル群に、日差しが反射して輝いている海が見えたり……案外、俺が思っていた以上にいい景色だった。


「どう、良かったでしょ?」


「は、はい……!」


「良かった! それじゃ、もうちょっとこの景色を堪能しようか!」




「(……あれ、先輩さんさっきずっとヨシトのそばにいるって言ってたな。ああ、やっぱり先輩さんは……AHAHA、こりゃますます目が離せないな)」


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