27:ほら、美味しくお食べ。アーン


「ここの中華料理屋さんすっごく美味しいんだ〜。ここでいいかな?」


 公園から出て、先輩に連れられるがまま少し歩いたところに洒落た外観の中華料理があった。外にあるパネルに手書きで美味しそうなランチメニューが書かれていて、それを見るにどれもなかなか食欲を誘ってくるものだった。


「はい、ここにしましょう。それにしても先輩、本当にここら辺のことお詳しいんですね」


「いやー、それほどでもないよ〜。真田くんと一緒にご飯食べに行けるから、しっかり準備しておいただけだって〜」


「私は?」


「も、もちろんカタリナさんとも楽しみだったよーあ、あはは。あ、三人なんですけど空いてますか?」


 そして先輩が店員さんに入れるか確認して、問題ないとわかると俺たちはお店の中に入って席に座る。おお、中は落ち着いた雰囲気のお店だなぁ。


「それじゃあ二人は何頼む? 私はこのチャーハンにするね」


「それじゃあ俺は……担々麺にします」


「私はーえーっと、回る……ん、真ん中の漢字なんだ? まぁ、この回る肉ってやつにする」


「カタリナ、それホイコーローって読むんだよ」


「ほー、やっぱり日本語は難しいな」


「まぁ俺も初めて見た時は読めなかったよ。すみませーん」


 それから俺は店員さんを呼んで、注文を済ませる。それにしても、カタリナのやつ……隣に座ってわざとらしく俺にくっついてきてないか? 彼女らしいといえばそうだけど、先輩にそこまで見せつける必要もないだろ。


「いやー、二人ともお熱いねー」


 ほら、案の定先輩からそう言われてしまうぐらいラブラブだって見られてる。でも彼女のフリをしてもらっているから、そう思われるのはむしろ問題ないのか。


「そうさ、私たちは運命共同体ってやつだからな。だが先輩さん。さっき紅葉見に行った時の二人もただの上下関係ってものには見えなかったが?」


「えー、それは私たちにも熱い友情関係があるってことだよ」


「ほー、だからあの写真を——」


「あ、料理きたよ!」


 何やら写真のことであったらしいけど、タイミングがいいのか悪いのか、ちょうど料理がきたので話が遮られてしまった。あ、でもすごく美味しいそう。担々麺以外にもサラダとかデザートとかついてきてるから、お得感もあって良い。


「それじゃ食べよー、いただきます!」


「いただきます」

「いただきまーす」


 食前の挨拶を済ませて、早速料理を食べ始める。おお、この麺のもちもち感に、ゴマの風味がよく聞いているピリ辛なスープがよく絡んでめちゃくちゃ美味しい。これは先輩に連れてきてもらって感謝しないといけないな。


「美味しいでしょ、真田くん?」


「はい、すごく美味いです!」


「それはよかったぁ。カタリナさんは……聞くまでもなさそうだね」


 すごい勢いでカタリナは回鍋肉を食べているので、感想を聞くまでもなさそうだ。お前は大食いファイターか。まぁ家でも一番ご飯を食べているのはカタリナだから今更驚くことはないけど。でもなんでこんなに食べて痩せているのかはすごく疑問だ。


「……(よし、ここで私がデザートの胡麻団子を真田くんにアーンして食べさせてあげて、仲睦まじい私たちの姿を見せつければきっとカタリナさんは自分が真田くんにふさわしくないって認めてくれるはず。よし、目の前で見せつけてやる、分からせてや——)」


「ほれヨシト、胡麻団子やる」


 デザートに差し掛かったところで、カタリナが箸で掴んだゴマ団子を俺の口元まで持ってきた。あれ、いつもなら絶対デザートなんか譲ってこないのに。むしろ大体俺が奪われる立場なんだけど。一体どう言う風の吹き回しだ?


「え? いや、カタリナ食べなよ」


「私のご厚意を受け取れないってか?」


「そ、それは……」


「ほら、美味しくお食べ。アーン」


「じ、自分で食えるって……んっ!?」


 遠慮している俺の口に半ば強制的にカタリナはゴマ団子を食べさせてきた。初めてカタリナからこんなことをされたので危うく喉に詰まらせそうになるものの、なんとか食べてゴマ団子を味わう。


「どうだ、旨かったか?」


「……めちゃくちゃ美味しかったけど、無理やり食わすなよ!」


「HAHAHA! ヨシトが美味しいというなら問題なさそうだ」


「俺を実験台にしたってか……あれ、先輩?」


「あ、あ……(さ、さらっとやられた……。わ、私が覚悟決めてやろうとしていたことを……そ、そんな……わ、私が見せつけられちゃってどうするの!? が、頑張ってよ私! まだ勝負はここからでしょ!?)」


 どうしてか、先輩が唖然とした表情でこちらを呆然しながら見ていた。もしかして先輩、ゴマ団子が欲しかったのかな? 確かにここのゴマ団子美味しいし、いくらでも食べられるから先輩が食べたがるのも気持ちがわかる。俺のをあげようかな?


「そうだヨシト、せっかくだし先輩さんの胡麻団子ももらったらどうだ?」


「え? いや、それはさすがに迷惑だろ。それなら俺が先輩にゴマ団子を———」


「あげます! あげちゃいます! ほら真田くん、アーン!」


「ふんがっ!?」


 ものすごい勢いで先輩に胡麻団子を食べさせられた俺は、危うくまた詰まらせそうになってしまう。い、いや美味しいから良いんだけどね。それに……先輩からこうやってアーンしてもらえるのは、正直嬉しい。


 もうちょっとゆっくりだったらなおよかったんだけど。


「(や、やった! あげれた! 食べさせてあげれた! 真田くんほんとに可愛くて大好き!!!)」



「(面白い二人だなぁ〜AHA)」


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