21:先輩とキスしてしまいました


「な、なんとか明かりがついて良かった……ああ、怖かったよ真田くん……!」


「ほ、ほんと良かったです……」


 風呂から出てしばらく経った後。無事に停電は解消されて家の中の明かりが戻ってきた。ああ、本当に良かった。停電が続いている最中、よほど暗闇が怖いのか先輩は俺の身体にずっと抱きついてきてたから……色々こらえるのが大変だったし。


「そ、それじゃあもう夜も遅いですし寝ましょうか。お、俺ここのソファーで寝かせてもらってもいいですか?」


「え、それは良くないよ真田くん。泊まってもらう人にソファーで寝てもらうなんかできないって。ほら、こっちにおいで」


 先輩は俺の手を引いて、どこかに連れて行こうとする。ただ、なんとかくそれがどこか俺は察しがつく。うーん、空き部屋とか先輩の家にはなさそうだし、となると……。


「私の部屋のベッド使って!」


 やっぱり! い、いやでもそんなことできるわけがないって! 絶対眠れないことが確定してしまう。こ、ここはなんとか先輩を言いくるめてこの状況を逃れないと。


「い、いやそれはダメですって先輩! お、親御さんのところが空いてるんじゃないですか?」


「い、いやそこはねー、うん。お父さんもお母さんも布団派なんだけどね、旅行に行っているからいつものマイ布団持ってっちゃってるの。だ、だからないんだー。こ、ここで寝るしかないんだよー」


「……ほ、本当に?」


 いや、それはちょっと無理がある嘘なんじゃないか? 枕ならまだしも布団持っていく人なんかいないだろ! それに、先輩の目もすごいキョロキョロしているし……。


「ほ、ほんとだって! 私のことを信じてよ!」


「で、でも……。そ、そもそも先輩はどこで寝るんですか!」


「え、そ、それは……ああ、もう! わ、私は真田くんと一緒に寝たいの! お願い真田くん、隣で一緒に寝て! いや、寝よ!」


「うわぁ!?」


 やけになったのか、先輩は俺の手を引っ張って自分のベッドに俺を引きずり込む。そして隣に来て、俺のすぐ近くまで接近してきた。


「こ、こうやって寝れば……ま、また停電になった時にも安心できるから……。だ、だから……こうしよ」


 喋ると顔に息が吹きかかってしまうぐらいに近くて、下手に動いたらキスしてしまいそうな距離。今までそんなところで先輩の顔なんか見たことないのに、恥ずかしそうにしながら必死に懇願してくる彼女を見ていたら……俺は、もうその通りにするしかない。


「……わ、わかりました」


「や、やったぁ! そ、そしたら……ここでいっぱいお喋りしよ。まだ寝るには早いでしょ?」


「そ、そうですか? もう寝る時間な気が……」


「やーだ、話そ! そうだ、恋話をしよう。真田くん、最近彼女さんとはどう?」


「へ!? え、えっと……い、いい調子ですよ。た、たまに夜電話したりしますから」


「ふーん、そっか。……でも、こうやって夜に、二人きりで、ベッドの中で話すのは……経験したことある?」


「え、えっと……」


 俺の頰を先輩が右手で触りながら、少しニコッと笑って質問してくる。嘘であるというべきだってことはわかってる。でも……どういうわけか、今の先輩の前で嘘をつくことができそうになかった。だって、至近距離で映る先輩が本当に可愛くて、美しくて……心臓の高鳴りが止まらないから。落ち着かない今の身体じゃ、下手な嘘しか言えなさそうだ。


「な、ない……です」


「そっか……。なら、この真田くんの初めては、私がもらっちゃったんだね」


「そ、それは……」


「ね、ねぇ……真田くん。こ、このまま……わ、私と……そ、その……(あ、あれ早すぎちゃった!? で、でもこうやってそういう雰囲気に持ってくしかないよね……こ、ここで勝負を決めて……わ、私の思いを……!)」


「おーいお姉、私いつの間に寝ちゃってた…………ああああ!?」


「ち、ちーちゃん!?」


 タイミングがいいのか悪いのか、ちひろさんが先輩の部屋に入ってきて、俺たちが二人同じベッドにいることを見て、前と同じように悲鳴をあげてしまった。


「同じベッドって……何してたの二人とも!? ああ、エッチ、エッチ、破廉恥!」


「ち、違うよちーちゃん! い、いや、違わないともいえるけど……」


「エッチ! 二人ともエッチ!!!」


「ちょっ、ちーちゃ……きゃっ!」


「!?」


 ちひろさんが無理やり先輩の手を引いて、それを先輩が抵抗したはずみで……俺と先輩の唇が、偶然にも重なってしまう。そう、キスを……してしまったんだ。


 ほんの一瞬だったはずなのに。柔らかくて甘い感触が一気に俺の身体を駆け巡って……。


「………………」


「さ、真田くん……真田くん!?(キスしちゃったキスしちゃったキスしちゃったキスしちゃったキスしちゃったキスしちゃった……真田くんとキスしちゃった!)」


 俺は先輩とキスしてしまったことがあまりにも衝撃で……情けないことに、気絶してしまった。


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