18:先輩の妹さんに襲われかけた


「うわぁ……美味しそうな料理ですね」


「うへへっ、真田くんに褒めてもらえて嬉しいよ!」


 先輩が作ってくれた夜ご飯はとても豪勢なものだった。「ホタテとアボガドのカルパッチョ」に、「あさりとタケノコの炊き込みご飯」、さらに「里芋の唐揚げ」と……その他諸々。正直早く食べたくてうずうずさせるぐらいに、香ばしい香りが俺の食欲を誘ってくる。


「土屋先輩、すごい料理がお上手だったんですね。すごいなぁ……」


「いやーそれほどでもあるかなー。私、将来好きな人ができた時のためにとことん料理を練習してきたから」


「へー! ならきっと先輩の旦那さんになる人はすごい幸せ者ですね!」


「うん!(君がなるんだよ!)」


「でもお姉。こんな貝どこで買ってきたの? 家にあったっけ?」


「大学の友達からもらったの!」


「ふーん、そうだったんだ。じゃあ早速食べちゃうね。いただきまーす」


「はーい。ほら、真田くんと召し上がれ」


「は、はい! いただきます」


 早速先輩の料理を食べてみると、思っていた通りとても美味しかった。今まで貝料理はあまり食べてこなかったけど、こんなに美味しいものだったなんて……!


「どう、真田くん?」


「美味しいです! めちゃくちゃ美味しいです!」


「それは良かった! おかわりたくさんあるからいーっぱい食べてね! ほら、これお代わり分!」


「ありがとうございます!」


 それから先輩に乗せられるがままにたくさん俺は料理を食べまくった。本当に先輩の料理が美味しかったので食べている最中はいくらでも食べられると思っていたけど……。


「……食い過ぎた」


 当然、食べ過ぎは良くない。自制できなかった俺は、先輩の家にあるソファーに横にならせてもらって休憩する羽目になってしまった。ああ、情けねぇ……勉強を教えてもらって、料理までご馳走になったってのに、さらに迷惑かけることになるとは……。


「ご、ごめんね真田くん。無理にいっぱい食べさせちゃって……」


「無理なんかじゃないですよ……先輩の料理、本当に美味しかったので俺がついいっぱい食べちゃっただけです」


「さ、真田くん……! また今度いっぱい食べさせてあげるからね!」


「めっちゃ楽しみにしてます……」


 ただ、当分貝料理はいいかなぁ……。でも、先輩がニコニコしながら俺の食べているところを見ていてくれたから、いっぱい食べれたってのもある。それを正直に先輩に伝えることはできなかったけど。


「……」


「あれ、ちーちゃん。ご飯食べ終わったあとどこ行ってたの?」


「……お姉の道具借りてた」


「…………え?」


「でもそれじゃあ我慢できない…………!」


「うわぁ!?」


 何やらポーッと体が火照っている様子だったちひろさんは、あれだけエッチやら破廉恥言っていたのに、何を思ったのかいきなり横になっている俺に飛びかかろうとしてきた。


 とっさに先輩が止めたから助かったけど、もし先輩がいなかったら俺……無事でいられたのか?


「ま、まさか貝料理がむっつりすけべのちーちゃんに効果抜群で、性欲が増強しちゃったの……!?」


「せ、性欲増強!?」


 なんかさらっと先輩の口から怖い言葉が聞こえてきたんだけど。貝料理ってそんな効果があるのか!? いやぁ……食べたらこんなことになるなんて、貝料理って怖いんだな……(注:なりません)


「さーなーだーくーん、私と一緒に破廉恥なことしよ〜」


「し、しないですから! せ、先輩、ちひろさんをどうにかしてください!」


「うーん、どうするって……あ、そうだ! ちーちゃん、これを飲みなさい!」


「うぐっ…………すぅ」


 先輩が夕食の時に入れていたコーヒーをちひろさんに飲ませると、ちひろさんは急にうとうとし始めて眠ってしまった。


「ちーちゃんがカフェインにめちゃくちゃ弱くて助かったよ……。これでしばらくは大人しくなるはず」


「よ、良かった……」


「……そうだ、真田くんは大丈夫? ちーちゃんみたいになってない?」


「え? あー、全然ですね。食べ過ぎてそれどころじゃないってのもあるかもですけど」


「…………………そっか(なーんでこうなっちゃうのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 真田くんに効果がなかったら何の意味もないでしょおおおおおおおおおおおおお! せ、せっかくいい食材買ってきたのに…………バイバイ、私の何ヶ月分のバイト代)」


「それじゃあ、俺はそろそろ帰りますね。これ以上先輩の厄介になるわけにはいきませんから」


「え」


「今日はありがとうございまし——」


「ま、待って!」


 立ち上がって、帰る準備をしようとした俺を、先輩は手を掴んで止める。そして、少し涙を流してしまいそうな表情をしながら、先輩は


「か、帰っちゃ…………やだ」


 そう、頰を赤らめながら言ったんだ。


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