17:僕たちは真っ当な関係です


「それで、お姉とあなたはバイト先での先輩後輩って関係で」


 悲鳴が収まり、しばらく経った後。俺と先輩は正座しながら妹さんに尋問のようなことを受けていた。どうも先輩の妹、「ちひろ」さんはえっちなことがとても許せないらしく、何かとそういうのに厳しいらしい。……家庭教師ってだけであそこまで大袈裟なえっち判定は過敏すぎる気もするけど。


「そ、そうです」


「今日は本当にただ勉強を教わりに来ただけで何もえっちなことをしようとしたわけじゃないと」


「さ、左様でございます」


 ついかしこまった言い方をしてしまった。いや、だって今警察から事情聴取を受けている気分になるんだもんこれ。ちひろさんの圧、なかなかに怖い……。


「…………わかった。私、勘違いしちゃってたみたい。ごめんなさい、お姉、えっと……」


 どうやら一応誤解は解けたらしく、厳格な雰囲気が少しだけ緩いだ。ふぅ……これで一件落着ってところかな。


「真田嘉人です。よろしくお願いします、ちひろさん」


「よ、よろしく……あ、握手!? え、えっち、破廉恥!」


「え、ええ……」


 握手でえっち判定はもう頭ピンクすぎないか!? この人胸は先輩と違って慎ましいけど、先輩と同じくすごい美人だし、男性と接する機会もそれなりに多いだろうに。一体どうしてこんな風になってしまったんだろう。


「ちーちゃんは女子校の風紀委員をしてるから男の人に敏感なんだよ。ほんとは男の人と付き合いたいくせにねぇ〜」


「ち、違うもん! 高校の校則で、異性交遊禁止ってのをちゃんと守ってるだけだもん! お姉みたいにえっちな道具買ってないもん!」


「え、えっちな道具……?」


「さぁ真田くん、勉強開始だよ! じゃあちーちゃんはここでバイバーイ!」


 先輩がえっちな道具を買ったってことがすごく気になるけど、すかさず先輩が話を逸らして勉強しようと言い出す。せ、先輩もそういうのを買うんだ……ど、どんなのを買ったんだろう。き、気になる……すごい気になる……。でも俺から聞いたらそれこそセクハラになってしまう。クッソ……勉強に集中できる気がしない。


「だめ、お姉。私、ここで見張る」


「え」


 先輩がマメ鉄砲を食らった鳩のような表情をして、ぽかんと口を開けている。俺も少し驚いた。まだ見張りを必要とするぐらいには警戒されているなんて、もしかして俺って初対面の人から信用してもらえないタイプなのかと不安になる。


「お姉が本当にえっちなことをしないか監視しないと」


「いや、本当にしないから。ね? ね? お願いだよちーちゃん、ちひろ様」


「本当にしないんだったら私に見られても問題ないでしょ」


「う……」


 半ば強制的にちひろさんを先輩が追い出そうとしたものの、ちひろさんはきっぱりと断った。そこまでしてえっちなことをして欲しくないのか? 随分と個性的な人だなぁ。


「ほら、勉強するんでしょ。私のことを気にしないで進めたら?」


「うう……じゃ、じゃあ始めよっか……」


 それからまた勉強会が始まった。けれど、さっきみたいに先輩が胸を押し当ててきたり、耳元で囁いてくることはなくなり、真っ当な勉強会になった。ただし、俺は先輩の買ったえっちな道具が気になりすぎて、全く勉強に集中することはできなかったけど。


「お疲れー真田くん。これで次のテストはバッチリだね!」


「そ、そうですね。今日はありがとうございました」


 あっという間に時間がすぎて、気づけばもう夕暮れ時になっていた。なんだかんだ色々あったなぁ。やっぱり先輩と過ごす時間はすごく濃いや。


「そんなことないよ〜。あ、そうだ! 今日はうちで夜ご飯食べようよ。私、料理作るからさ!」


「え、そんな……悪いですよ」


 先輩がニコニコしながら、ご飯を一緒に食べようと提案した。流石に勉強だけでなくご飯まで世話になるのは申し訳ない気がして、つい反射的に断ってしまった。本当は先輩の手料理を食べたい気持ちも……なくはないけど。


「いいの、気にしないで。ちーちゃんも、料理を作ることぐらいは問題ないでしょ?」


「ま、まぁ……それはえっちじゃないから」


 流石に料理を作ることまでえっち判定されたらもうなんでもえっちになっちゃうもんな。ちひろさんもコクっと頷いて先輩の提案を受け入れる。


「よし、決まり! そしたら早速作ってくるね」


 あっという間に先輩の家でご飯を食べることが決定してしまい、先輩はキッチンに行ってしまった。でもせっかく先輩の手料理が食べられるんだ。ここはありがたくいただいていこう。先輩、どんな料理を作るんだろう。




「ちーちゃんに邪魔されちゃったけど、ここは絶対に成功させないと……。さて、この前精力がアップする食べ物で検索したレシピ通り作れば……真田くんはきっと我慢できずに私のことを襲っちゃうはず! うふふ……ふふふふふふ……待ってて真田くん……君の本能をむき出しにさせてあげるから……!!! さて、まずは「ホタテとアボガドのカルパッチョ」をつくろーっと!」

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