16:先輩の誘惑にひたすら耐える勉強会


「それでねー、ここはこの公式を使ってーそうそう、真田くん天才〜」


「な、なるほど…………あ、あの……せ、先輩……」


「んー? あ、ここもわかんないのかな? これはねー、こうしてこうやってー、はい、こんな風に解いたらいいんだよ!」


「そ、そうだったんですね……。い、いやそれじゃなくて。それもあるんですけど。…………さ、さっきから……そ、その……当たっているんですけど」


 土屋先輩の部屋で勉強会が開かれて手玉に取るらというもの、俺には勉強以外で様々な苦難が待ち受けていた。先輩の部屋に二人きりでいるということ事態がすでに試練だというのに、あろうことか先輩は俺にぴったりと身体をくっつけながら……おっぱいをわざとらしく当ててくるのだ。


 さらに、先輩の神秘的なおっぱいに触れているだけでもすでに理性は崩壊しかけているってのに、先輩はなぜか耳元で囁きながら勉強を教えてくれる。俺は今まで耳が弱いとか思ったことはなかったけど、いざこうしてひたすら先輩から囁き続けられると……ヨワヨワになってしまうのも仕方がないことだと思う。


 俺は家庭教師とか塾とかにいったことがないからわからないけど……勉強って、こうやって教わるものなのか?


 いや、そんなわけねーだろ! せ、先輩もついつい俺へのからかいが過ぎているだけに違いない。とりあえずさりげなく指摘してみて、この状況から脱出しなくては!


「えー、何が当たってるのかな? ねぇねぇ?」


「そ、それは……せ、先輩の……」


「どーしたの、顔を赤くしちゃって? エッチな妄想でもしちゃったのかな? ダメだよ〜今は勉強中なんだから」


 確信犯なのは間違いない。だが、土屋先輩はきっと俺がそれを指摘することを見透かして、俺の頬を人差し指でツンツンしながらからかってくる。な、何をためらっているんだ俺! 真面目に勉強するためにも先輩にこれはやりすぎだって言わないと……。


「い、いや……で、でも……せ、先輩の……む、胸が……」


「私の胸がどうしちゃったのかな〜?」


「そ、その……あ、当たってて……しゅ、集中できないというか……」


「あー、そっかー。私のおっぱい当たってて興奮しちゃったんだね〜」


「こ、興奮はしてないです!」


「え」


「え?」


 もちろん、本当は興奮してた。めちゃくちゃしてた。でも、本人の前で「おっぱいに興奮してました!」なんて言えるわけがない。なので俺は必死に見栄を張ってきっぱりと断った風をなんとか装った。


 だが、すると先輩の様子が一気におかしくなった。さっきまで俺をいいように手のひらで転がしていたのに、興奮していないと言ったら口をぽかーんと開けて呆然としている。


「ど、どうしたんですか先輩!?」


「………(真田くんが……私のおっぱいに興奮していない!? じ、自分で言うのもなんだけど、めちゃくちゃ男を悩殺できるであろう、この私の胸に惹かれないってことは……や、やっぱり真田くんは彼女に夢中って……コト!? そ、そんな現実突きつけられたくなかった……ああ、私はおしまいだ! こ、このまま真田くんのことを無理やりぱっくんちょするしか……)」


「せ、先輩!?」


「…………さ、真田くん、ちょっと休憩しよっか。あ、私のベッドで寝っ転がってていいよ」


「で、できるわけないじゃないですか!」


「じゃあして! お願い!」


「意味がわかんないですよ!」


 いきなり先輩からベッドで寝てくれとか言われても、できるわけがない! そりゃ本音を言ってしまえば俺だって先輩のベッドを堪能したいよ! 絶対いい匂いするだろうし! でもしたら俺は変態という称号を手に入れてしまうっての!


「お願い真田くん! 絶対に後悔させないから!」


「な、何をする気なんですか!」


「いいことに決まってるんじゃん!」


「いいことってなんですか!?」


「そ、それは……そ、その……え、えっと……」


 さっきまで謎の勢いがあったのに、いいことが何かを聞くと急に先輩はトーンダウンする。口をゴモゴモさせて、何か言おうとはしているけど……な、なんなんだよ一体!


「…………すぅ、はぁ……。え、えっとね……いいことっていうのは……せっ——」


「あれ、お姉いたん…………はわああああああああああああああああああああ!?」


 先輩が呼吸を整えて、何か言おうとしたその瞬間。部屋の扉が開いて、制服姿の女の子が現れた。すると、女の子は俺がいることにびっくりしたのか、急に悲鳴を上げだした。


「ちーちゃん!? ど、どうしてここに!?」


「忘れ物を取りにきたから戻ってみたら……お、おねぇが男連れ込んでるなんて! エッチ、破廉恥!」


「い、いや俺は先輩に勉強を教えてもらってるだけで……」


「か、家庭教師ってこと!? そ、そんなのえっちすぎる! えっちなのはダメ、死刑! いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああどうしてこうなっちゃうのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 姉妹の悲鳴が家中に響き渡り、カオスな空間が創造されてしまった。な、なんだこれ……べ、勉強どころじゃないぞ。


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