11:実質先輩と混浴


「うわぁ、風情のある銭湯ですね」


 建物の中に入ると、そこにはまさにTHE銭湯って感じの風景が広がっていた。スーパー銭湯とはまた違ったこの雰囲気がいい。近所にあったら通いたいぐらいだ。


「そうだねぇ、真田くん。でも全然お客さんがいる雰囲気ないや。もしかして私たちに貸切状態になっちゃうかな?」


「流石にそれはないんじゃないですか? あ、すみませーん。二人お願いします」


 店員さんがきたので、俺たちは早速お金を払う。優しそうなおじいさんがニコニコ対応してくれたので、こっちの気分も良くなる。


「あいよ。今日は全くお客さんが来なかったから、あんたらの貸切だな」


「え、そうなんですか?」


「そうだよ。ま、ゆっくり浸かってくれな」


「ありがとうございまーす! やったね真田くん、ゆっくり入れちゃうよ! 早く行こ行こ!」


「せ、先輩!?」


 銭湯に来て気分が高揚してしまったのか、土屋先輩が俺の手を引いてあろうことか俺を女湯に連れて行こうとした。そりゃ、俺だって入りたいのが本音ではあるが……いや、他に客がいないのならありなんじゃ……先輩のロケットおっ●いを見たいのも正直なところで…………


 いや、ダメに決まってるだろ!


「お、俺は女湯に入れないですから!」


「あ、そうだった! いっけなーい、私としたことが。それじゃあ、お互い壁の向こう側からいっぱいお話ししようー。ではお先に!」


 やけにテンション高く先輩は女湯に入って行った。そんなに銭湯来たかったのか……よし、俺も楽しもう!


 そんなわけで俺は男湯に入り、ささっと脱いで浴場に入った。おー、本当に他の人が誰もいないや。これなら思う存分ゆっくりできるぞ。


 でも、この隣にある女湯では土屋先輩が……………。あ、覗きはダメって書いてある。てか壁に穴なんかなさそうだから絶対覗けないだろこれ。良かった、これなら過ちを犯さずに済む。


「ふぅ…………最高」


 お湯に浸かると、身体中の疲れが一気にほぐれていくような気分になった。こうやって仕事帰りに実質貸切の銭湯でゆっくりできるなんて、理想すぎるムーブだなぁ。


「ねー真田くん、聞こえてるー?」


 ふと、壁の向こう側から先輩の声が聞こえてきた。どうやら先輩もお風呂に入っているようだ。


「聞こえてますよ。結構声届きますね」


「ねー。貸切だし、ゆっくりできるのは最高だね。(……覗きはできなかったけど。でも裸の真田くんと話してるってだけで理性がはちきれそう……!)」


「ですねー。今日はありがとうございます、先輩のおかげでいいとこ来れましたよ」


「えへへ、真田くんに喜んでもらえて良かった。それにしても、こうやって浴場の中で二人きりで喋れるの……なんだか、混浴しているみたいだね。実質混浴みたいな?」


「へ……あ、ああ。た、確かにそうかもしれないですね」


 実質混浴……。た、確かに壁一枚隔たりはあるものの、そう言っても過言ではない状況ではあるかも……。や、やべぇ、そう考えると急に恥ずかしくなってきたぞ。いやいや、思春期の中学生じゃないんだから、先輩の姿も見えないのに興奮してるんじゃない俺!


「そういえば私ねー、最近また胸が大きくなってきちゃったんだー。でかいと肩がこるから厄介なんだよー」


「へ、へぇ……そ、それは大変ですね……」


 や、やめてくれ先輩……今その話題は俺に刺激が強すぎる! ああ、鼻血とか出さないようにしないと……。


「あ、今顔赤くなってるでしょ」


「風呂に入ってるから赤くなるに決まってるじゃないですか!」


「あははー確かに! でも真田くんがあたふたしてる様子、余裕で想像できちゃうなー」


「う……」


「でも彼女さんの胸とか見たことあるでしょ? どう、私と彼女、どっちのが好き?」


「はえ!?」


 追い討ちをかけるように、先輩がとんでもない質問をしてきた。先輩が考えている俺の彼女なんか本当は実在していないので、もちろん俺は先輩の方の胸が好きに決まっているんだけど……。


「ここだけの話教えてよー。ねー、いいでしょ真田くーん」


 また見栄を張って彼女だって言うべきか? でも、俺は……俺は……正直、先輩のおっ●いが……いや、先輩のことが……。


「…………好きですよ、先輩」


「……え? そ、それって、彼女さんより私の胸の方が……」


「…………」


 何をトチ狂ったか、嘘をついた方が良かっただろうに俺は馬鹿正直に先輩の方がいいと答えてしまった。これで彼女がいるなんて嘘がバレるとは思えないけど……これじゃ、他の女性にうつつを抜かすクソ野郎だって思われてもおかしくない。あー……幻滅されちゃったかな?


「…………あれ、先輩?」


 俺がそう答えてから、先輩がしばらく黙ってしまう。すかさず俺はその空気に耐えきれず声をかける。


「…………やっばぁ……超嬉しい…………」


「え?」


「……う、ううん、なんでもない! そっかぁ……えへへへへへ。なら見る、見ちゃう?」


「そ、それはダメですから! お、俺先に出てますね」


 誤魔化すように、俺は風呂から出て更衣室に向かっていった。……でも、あの先輩の反応。なんだかすごく喜んでいるように見えた。





「……あー、本当に真田くんが私の方がいいって言ってくれた……顔まじですごく熱い……。嬉しいなぁ……え、えへへへへへ。今日は……真田くんが私のおっ●いを褒めてくれた記念日だね!」






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