考え過ぎ

舞台を観ていると、眼前で展開される世界があまりに美しくて『このまま時が止まってほしい』と思うことがある。


時が止まったら大変なので、これは極めて自己中心的な願望である。

だが、その瞬間に目にしているものが綺麗すぎて、劇場の外で待ち受ける現実に直面するのが怖くなってしまうのだ。


こんな風に胸がいっぱいになって、感動することなんて、果たしてこの先もあるのだろうかと、不安になってしまう。


舞台上の美しいものを見て、今この瞬間は自分の心の中までも綺麗になったような心地がするけれど、明日になれば、また嫌なことをいっぱい考えてしまうし、暗い感情を抱いてしまう。


それがもう堪らなく、嫌になるのだ。


だからもう少し、真っ当な人間になりたいものである。

舞台の幕が降りた後、外に出て行くのが怖くないような、胸を張って現実を生きていけるような、ちゃんとした人になりたい。


舞台上の世界からもらったものを、綺麗なままちゃんと心の中にとっておけるようになりたい。


舞台を観て感動した時に、時が止まってほしいとかじゃなくて、もっと前向きな気持ちを抱けるようになりたい。



大袈裟に聞こえるかもしれないが、それがわたしの目標である。


そんなことをあれこれ考えながら、わたしは劇場を後にする。

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