第4話 心残り


 ***

 

 ゆっくりと瞬きする度に、視界が明滅する。

 見えるのは、大きくなった自身のお腹を優しく撫でる華奢な手と、そこに耳を当てにきた知らない男。彼の耳がお腹に触れた途端、お腹の中から何かがポンッと外を叩く。

 「蹴られた」と頬をさする彼は、しかしそれさえも嬉しそうだ。そしてそれはも同じだった。

 一緒になってクスクスと笑う、穏やかな日々。これこそまさに幸せの絶頂と言っていいだろう。得も言われぬ幸福が、まるで心に沁み込むように伝わってきた。


 しかしそれも一瞬だ。


 映像はそこでプツンと途切れ、次に見えたのは、割れたガラス。ピントがいまいち定まらないまま緩慢に動いた視線の先には、ひしゃげた運転席がある。すぐ隣には、彼が座っていた筈だ。

 視線を下げれば、おびただしい量の赤がジワリと、流れて血だまりを作り始めている。

 あぁこの赤は彼のもの? それとものものだろうか。

 伸ばしたくても、手は思うように動いてくれない。視界はぼやけ、気力もなくなり、瞼がゆっくりと下がっていく。

 意識は闇へと落ちていき、周りの悲鳴や怒号たちはさざ波のように引いていった。

 そんな中、心の中でポツリと最後に一つ呟く。


 私の、子、は……?


 ***

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