第7話 包まれろ
滑空していた姿のまま、身体全体が何かに叩きつけられた。不思議と、痛みは平手打ちされた程度だった。身体は勢いを失いつつ、そのまま何かに向かって沈んでいく。少し生臭いが、それはほんのりと温かく、生を強く実感させてくれた。
うまく落下の勢いをすべて吸収してくれたようで、僕は深く深く沈みきった。
やはり助かった…
心地良い安堵とともに、目を少しずつ開いていく。しかし、視界は依然として真っ暗で、まぶたが目を覆っているのかいないのかすら判然としなかった。
呆然としている僕の全身を包み込みながら、その何かは「ヒュッ」と苦しげに音を発した。それは、討伐依頼で度々耳にする、死にかけの生物が諦め悪く空気を吸い込む音と全く同じだった。その悲惨な遺言が発された直後、温かかった何かは破裂した。
鈍い破裂音と同時に、視界が明るくなっていく。僕を包み込んでいた何かはちりぢりに破れ、中身の液体を辺り一帯にまき散らした。その液体は、石の裏にこびりついているコケのような薄汚い緑色で、絶えずたくさんの泡が液体の表面にプクプクと浮かび上がっては、そのまま儚く割れていた。
割れた泡からは耐え難い臭いが放出されて、空気の淀む洞窟内で充満していった。
初対面ならば有毒としか思えない、地獄絵図のような光景と臭いだったが、僕には心当たりがあった。紛れもなく、これは今回の依頼の対象となっていた代物だ。
状況をあらかた察して、辺りを見回すと同時に馴染みのある声が聞こえた。
「二日酔いは大丈夫か?」
心配しているようなセリフとは裏腹に、男は呆れた表情を浮かべていた。
同じパーティメンバーのガリウスだ。
普段は見たとて何もありがたくない見慣れた髭面だが、今日ばかりは安心感を与えてくれる、とても愛らしい顔のように思えた。僕はつい顔をほころばせてしまう。
「まぁ飛び降り自殺ごっこできるぐらいだし大丈夫そうだな。それより…どうすんのよこれ」ガリウスは顔にべったりと付着した液体を片手で拭いながら、もう片方の手で指さした。
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