第37話 シティ・オブ・エパスメンダス攻防戦(2)
それは、ホテルのロビーで俺たちがチェックインを待っていた時のことだった。
「故人……と言っていいのかな。その故人を含めてなんだけど、きみとスノハラとオトハは言いにくいけれど、三馬鹿だよ」
ジョン・スミスがそう言い放った。
彼は言いにくいけれどと断りはしたが、それは便宜上だったのか全く言いにくそうではなかった。
俺の感想はさておき、なぜ彼がこう言ったかというと、バグ対抗兵器の件を根に持った俺がオトハに馬鹿と言いまくったのが事の発端だった。
オトハがそれを中々認めようとせず、しかも俺の方が馬鹿だと言い始め、最終的にジョン・スミスにどちらが馬鹿か訊いた。
その結果返ってきたのが、ジョン・スミスの先ほどの言葉だ。
「ちょっと、待て。スノハラとオトハはともかく、なんで俺が三馬鹿に含まれているんだ。ヨウドウ・ミツルギの方がよっぽど馬鹿だろうが」
俺は強い口調で注意した。
「そうですよ、ジョン・スミス。スノハラさんはともかく……」となぜかジョン・スミスだけは呼び捨てにするオトハが、俺に加勢する。「確かに私と妹は兄に全部いいところを持っていかれたと昔いた村で噂されていたことは知っています。ですが、私はスノハラさんほど馬鹿ではありません」
この村民、故人を指してその言い草はないだろう。
というより、その前に―――
「……おまえ、妹がいるのか?」
まさかと思いながら、俺は尋ねた。
「ええ、それが何か?」
ぷんぷん、と怒りながらオトハが訊き返してくる。
こいつにこいつと同等かそれ以下の妹がいるってことか……
そう考えたところで、俺は首を横に振った。
残りカス……改め村人Oの肩を、ポンと軽く叩いた。
その妹はこいつ以上にかわいそうだから、この件に触れるのはやめておこう。
ホテルのチェックインを無事に済ませしばらくした後、俺たちは一度ジョン・スミスの部屋に集まった。
先ほどの会話の終盤に、ジョン・スミスがまだ話があると言い出したからだ。
「何? やっぱりハーメルンが作戦司令本部にいるだって?」
その彼の話を聞いた俺は素っ頓狂な声をあげた。
ウルボロス山越境戦の達成感から、そのような些細なことはすっかり忘れていた。
「まだ確定ではないけどね」
俺の目を正面に見据えながら、ジョン・スミスが言う。
ということは、ハーメルンを司令本部に抱えながら、俺たちはこの戦いを始めなければならないということか。
そんな状態でこの戦いに勝てるとは到底思えない。
え?
と、そこまで考えたところで俺は首を傾げた。
……戦い?
そういや誰と戦うの?
なんとか星人とか?
「あらあら、仕方ありませんねえ、ハヤトさん。このオトハが教えて差し上げましょう」
と、オトハが胸を張ってそう提案してきた。
言葉を発した際、若干胸が揺れた。
しかしながら、そんなものが気にならない程度にイラっとした。
村人O曰く、ジャグ・ジャック大佐率いるフェーデという組織がクレア・ザ・ファミリアの各サーバーの支配を目論んでいるらしく、現在はこのシルバー・クルセーダーに狙いの照準を合わせているということだった。
シルバー・クルセーダー作戦本部は、サーバー間を繋ぐエイリアス海沿岸部にある海上都市シティ・オブ・バイバルスを要として、シティ・オブ・エスパメンダス、シティ・オブ・ハンニバルを、フェーデの侵攻に抵抗するための最重要拠点と見なし、その三拠点の中心部にあるシティ・オブ・エスパメンダスに連日各都市から大量に兵隊を集めているそうだ。
俺たちスペランカー部隊――ハンニバル小隊もその招集された兵隊たちの一部であるらしい。
頭の足りないローキック女の説明になるので、こちらにまったく切迫感が伝わってこなかった。
だが、要約するとフェーデという悪の組織がなぜかは知らないけど世界征服を企んでいるという、もはや数百年前の漫画やアニメの展開にも使われていなかったくらい使い古されたシナリオで、現在俺たちが直面している事態が動いているということになるのだろう。
クレア・ザ・ファミリアに住む人間は大の大人たちであるはずで、中には何百年も生きている人間もいるはずなのに、どういった経緯でそのような陳腐なシナリオにこの世界が染まることになってしまったのだろうか。
当然、その答えは今見つからない。
だが、この世界に入ってきたばかりの人間にとっては、理不尽極まりないし、不自然にも程があるとは思う。
そこまで考えた俺は、
「ふむ、なるほど」
と唸ってから、軽く頷いた。
でも、楽勝じゃね? 俺のループ能力があれば。
無限ループってわけではなさそうだが、時を戻せるなんて、何? そのチート級の必殺能力。主人公キャラしか持たないというか主人公キャラ超えた能力じゃん。
俺、異世界でチートになるって感じか?
となると、もしかしてだけど……もしかしなくても、今からハーレム展開が俺を待っている感じ?
そう俺がひとりで悦に入った矢先のことだった。
「ハヤト、気づいてないようだけれど」と、ジョン・スミスが前置きしてから言う「きみのループは、正確にいえばきみ個人の能力ではないんだよ。バグに殺されなければ、発動しないんだ。もっといえば、バッファ内のバグの協力がなければ、きみはどうやっても過去に戻ることはできない」
その後意味は良くわからないが、矢継ぎ早にジョン・スミスが興ざめするような条件を並べ立てる。
バッファにしか存在できないバグは、クレア・ザ・ファミリアのメインデーターベースに入ることは許されない。そのような想定ができる理由は、バグが存在することにより、シルバー・クルセーダーをはじめとしたサーバー間の過去の整合性が取れなくなることにある。だが、現在バッファの時点より前であれば整合性が取れているので、過去の時点ではバグの存在が除去されていると思われる。
これらを鑑みると、メインデーターベースの過去にバグが存在することはないとかなりの確率で結論できる。
一方のバッファについては、ある一時点でリフレッシュされたらメインデータベースに過去が反映され、それが確定情報になってしまう。なので、そのある一時点の直前までしかハヤトは時を戻ることができない。
つまり、ハヤトがループ可能なのはバグに殺されるというバグの関与があった時のみで、過去に戻れる時間もそのバッファの間の中にある定期リフレッシュの直前までということになる。
彼の長い証明問題のような説明が終わった後、さらにオトハが追い打ちをかける。
「そうですよ、ハヤトさん。ハヤトさんにハーレム展開なんて待ってません」
これを聞いた俺は、俺の心を読む能力でもあるのだろうかと、この村人に対して改めて底知れぬ恐怖感を頂いた。
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