第35話 ウルボロス山越境戦(12)

 そして、俺を含めたハンニバル小隊の一行は、ようやくウルボロス山の中腹を超えて、頂上へとたどり着いた。

 途中、何体かモンスターは現れたがすべてウリボリアン級で、それらはバグに変異することもなかった。


 他力本願ながら、俺はようやくループを抜けたのだ。

 頂上の空気を吸いながら、そう確信しした。


 途中、親友と呼んでも過言ではない友人の自殺にも等しい死亡事故があったので、晴れやかな気分とはいかなかったが、頂上から見下ろす下界には、シティ・オブ・エパスメンダスの美しい街並みがあった。

 その光景は、俺の暗くなった気分を少し和ませた。


「おしい人を亡くしましたね」

 オトハが、俺の隣に来て言う。

 目がかすかに充血している。

 言葉をかけることもなく、彼女に向け静かに頷いた。


 次に、ここにスノハラがいた足跡を残してやろうと思った。

 だが、この場にあいつの遺品は何もない。木製トンファーは、ハンニバル小隊兵舎に置いたままだろう。そして、彼の愛用していた鉄製トンファーは雪崩と共に消えた。

 これではスノハラにしてやれることは何もなさそうだ。

 頭を軽く振って、深くため息をついた。


 そのタイミングで、ふとオトハが目に入った。

 せっせと小さい雪山を造り始めている。何を目的としているのかわからないが、それに対する懸命さは感じた。

 不思議に思い、オトハに何をしているのか確認した。

 すると彼女は、

「ハヤトさん、これはスノハラさんのお墓です」

 と、言う。


 でも、そんなの春になったら溶けてしまうよ。

 そう述べようとしたが、俺は首を横に振り、黙ったままその場でしゃがみ込んだ。

 オトハの雪集めを手伝うことにしたのだ。


 スノハラのための墓造りは、ファウに止められるまでその後延々と続いた。


 これは後程の話になるが、俺はこの一連の事柄をウルボロス山越境戦と名付けることにした。

 といっても、俺とジョン・スミス以外はそれが何の戦いだったのかはわからないだろう。

 他の人にとっては、もしかするとスノハラの雪崩による死亡という事件があった以外はウルボロス山を素通りしただけの感覚かもしれない。

 けれど、何度もループを繰り返した俺にとっては長い……本当に長い戦いだった。


 この戦いでスノハラという唯一無二の親友を失った。だが、オトハを含め、その他のハンニバル小隊は無傷のままだ。

 ゆえにこのウルボロス山での戦いは大勝利とまではいかないが、ハンニバル小隊にとって一応の勝利の部類に入るのではないだろうか。

 

 例え、彼らが実際に何があったのか知らないとしても。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る