第31話 ウルボロス山越境戦(8)
ハンニバル小隊は必ずウルボロス山に向かうよう誘導されている。
そう考えれば、全ての辻褄が合うのではないだろうか。
エドワードは元より他メンバーの説得を何度試みても、最終的に必ずハンニバル小隊は、なぜかスペランカーのくせにウルボロス山を越境しようとする。
誰もが真面目に話を聞こうともしないので、この件については単なる俺のカリスマ性の無さだと思っていた。
さらに規則違反した場合の罰則が罰則なので、軍法尊種の側面があることはもちろん考える必要がある。
だが、それだけでは、このような馬鹿な行軍を続ける理由にはならない。作戦本部にちゃんと嘘でも交えて説明すれば、納得してくれるはずだ。
それが、こんなに何度も迂回ルートを取ることさえ叶わない状態になってしまうのは、あのハーメルンがそうなるよう誘導しているとしか思えない。
やはり越境の際に起こるあの忌まわしい事件。すべてではないにしてもその一部に、トラビスのようなハーメルンが関与している。
何度もループを繰り返し色々考えてきたが、最終的にたどり着いた答えはそれだった。
そうなると、もはやハンニバル小隊にハーメルンが紛れ込んでいるとしか思えない。
もし、そうでないのであれば、とうとうこのクレア・ザ・ファミリアは俺の独断と偏見で認定するクソゲー・オブ・ザ・イヤー・ランキング累計第一位が確定する。
だが、それが分かったところで、結局誰がハーメルンなのか突き止めなければ事態は解決しない。
となると、話は簡単。ハーメルンが誰か名探偵よろしく暴いて、ぶち殺してやればいい。どんなレトロゲームでもラスボスを抹殺することが最終目標だから、良心の呵責などあろうはずもない。
だが、もう一度周回トライした俺をさらなる絶望が襲う。
誰がハーメルンかなんて、どのように判別するといいうのだ。
普通に考えれば、ハーメルンの第一候補は作戦の意思決定をするエドワードだ。次に怪しいのはエドワードの彼女でサブリーダーのファウになるだろう。
また、彼らでないのであれば、考えつくのは曲者というのが定番の糸目キャラであるキラだが、彼はこの場にいないので除外する必要がある。
となると、当面あのバカップルふたりしか容疑者はいない。
かといって、彼らに直接「おまえらがハーメルンか?」とでも聞くのか?
どこに売っているのかもわからないが、彼らに自白剤を飲ませて吐かせるのか?
万が一ハーメルンが彼らではなかった場合はどうする?
はたまたファウが女風呂に入った後、こっそりのぞいて身体的特徴があるのかわからないが、ハーメルンの身体的特徴を見つけるのか?
それであれば、オトハのような他の女キャラたちに同じことをしなければならないのではないか?
様々な疑問が頭の中を渦巻く。
あまりも考えすぎて、ひと目も憚らず俺は頭を掻きむしった。
だが、少しの時を経た後、疑問に対する結論だけは出た。
それは、俺にそんな真似ができるはずもないということだ。
昨日、スノハラを唆して、ファウの身体的特徴が何かないか探りを入れようとした。そして、スノハラは嬉々として俺の提案を受け入れ、ふたりで半日かけて計画を考え万事準備した。
だが、計画の中盤である風呂のぞきの窓に近づく部分にも差し掛かっていないというのに、何故かスノハラはすまきにされて川の中へ放り投げられた。
俺が無事であることから計画はまだ暴かれていないようだが、これを見てファウを疑うことをやめることにした。
何度だってやり直してやると息巻く度にというより、考えれば考えるほど状況は悪化どころか破滅の一途を辿っている気がする。
これはやはりバタフライエフェクトというやつなのだろうか。
若干このような時に使わない用語のような気がしないでもない。
だが、その名称が何であるにすれ、もはや袋小路だ。
俺にはこの事件の解決は不可能であるという完全たる事実が胸に突き立てられる。
ここまで周回を重ねても何の進展もない時点で、そう考えて然るべきであろう。
さらに言ってしまえば、所詮俺は名探偵を気取れるようなタイプではない中肉中背のちょっと頭の良い男の子だ。
犯人を突き止めるなんてことができるはずもない。
廊下をトボトボと歩いていると、
「どうしたんですか? ハヤトさん」
オトハが声をかけてきた。
俺は無視をすることにした。
「おい、ハヤト。俺に相談していいぞ」
スノハラも呼びかけてくる。
これも無視することにした。
何も嫌がらせでそのようなことをしているわけではない。
ループが始まった当初は一週間あったが、今は一日半もない。それを過ぎてしまったら、ハンニバル小隊の全滅が確定してしまう。
もうほとんど時間が残されていないのだ。
その間に俺はこの未曾有の事件を解決しなければならない。
今、戦力にならないスノハラたちに相談したところで、その貴重な時間を無駄にするだけだ。
そして、愕然としながら彷徨った果てにたどり着いた花壇で俺がラフレシアを見つめている時だった。
「ハヤト、きみ、もしかして、タイムリープしてる?」
後ろから、若干甲高い男の声が聞こえた。
タイムリーでありかつ聞き捨てならない台詞。
反射的に顔をそちらへと向けた。
そして、振り返った先にいたその声の主は、俺が想像もしていなかった男だった。
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