第六話

「てん、いい加減にしなさい!今日は学校行くの?行くか行かないかはっきりしなさい!」


朝7時、お母さんの声が響き渡る。


「今日は学校行くよ。」


「そ、ならおにぎり作るね」


「うん、いつもありがとね」


関係が壊れた日から何ヶ月か経った。あの出来事からよく学校を休むようになった。1週間毎日学校に行けたことがない。表面上、3人との関係は今までと変わらないけれど、心の中ではもう友達とは思えなくなっていた。


あの出来事から、自分は3人の悪い部分だけが目に入ってくるようになって、それでも3人は自分のことを友達だと思ってくれていて、その板挟みに勝手に苦しめられて、学校に行けなくなった。


友達ってなんだろう。今までどうやって関わってきたのか分からない。


そんなことを思いながらいつもの電車に乗った。


今日は月曜日。いつもよりどんよりした空気が電車に溢れている。


これだから電車は嫌だなぁ。そう思った瞬間だった。


電車に2人組の高校生が乗ってきた。声のトーンが高く、明らかにこの電車の雰囲気をぶち壊しにきてる。


重たい視線を上げると、目の前にいたのは真奈ちゃんだった。隣にいるのは、まきちゃんだろう。


一気に気まずい雰囲気が流れそうだったから、すぐさま視線をそらした。どうやら真奈ちゃんは私に気づいていないようだった。


2人は仲良さそうに喋っている。


その光景を見ると、真奈ちゃんに合った友達は自分じゃなくてまきちゃんの方だったのだと痛いほど実感した。


それでもなんだか悔しくて、スカートの裾をぎゅっと握りしめた。


真奈ちゃんは私を置いてったのだ。


入学式当日、改札で颯爽と消えていったように真奈ちゃんは私の前から消えていった。


真奈ちゃんは高校生活を友達とエンジョイ出来て、なんで私は出来ないのだろう。


おんなじ高校生なのに。


そう思うと涙が止まらなかった。


周りの大人から変な目で見られている。きっと真奈ちゃんも私の存在に気づいただろう。それでも、涙は止まらなかった。


電車が駅に着いた瞬間、私は逃げるように電車から降りた。


そして近くにあったベンチに座り込んだ。電車から降りてくる人たちは私を変人を見るような目で見下ろした後、何事も無かったかのように階段を降りていく。


しばらく声を殺して泣いた。泣きたくもないのに、勝手に涙が溢れてきた。




しばらくしてふと顔を上げると、いつもとは違った光景が広がっていた。1つ前の駅に降りていたのだ。


時計を見ると、8時30分だった。


ちょうどホームルームが始まる時間だ。


もう学校には間に合わない。そう実感した瞬間、学校に行く気が一気に失せた。


それからしばらくして、携帯がなった。


どうせ学校だろう。


そう思い、携帯の電源をぶち切った。


目の前を電車が通るたび、冷たい風がスカートを揺らしていく。


駅のホームのずっと先には、葉が散りかけた桜がぽつんと立っていた。

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