第四話

「てんちゃん、4時間目って、家庭基礎やんな?」


3時間目の終わり。かなでちゃんがそう尋ねてきた。


「そうやとおもうよ。てか、かなでちゃん、毎回うちに4時間目の教科確認してくるよね笑笑

なんか、かわいい」


「だって、空腹で忘れちゃうんやもん。それに、4時間目の教科って結構大事じゃない?」


「なんで?別に他と変わらんくない?」


「いやいや笑笑、絶対大事だって。だって、お腹は空いてるし、適度に疲れてるしで、寝れる授業かどうかって結構重要よ笑笑」


「うち、授業で寝たりしないから分からんわ。でも、内職できるかどうかは結構重要かもね笑笑」


「うわっ、真面目なこと言ってる。でも、てんちゃんさ、3時間目寝てたよ笑笑、ねっ、陽葵ちゃん!」


「それな。ガチ寝してたよ。」


そんな記憶は一切ない。というか、記憶がない時点でやばいのか。今、気がついた。3時間目は、論理表現。通称、悪魔の論評の時間だった。


「終わった、まじか。悪魔の論評に負けたよ。てか、寝てるのに気づいてたなら、かなでちゃんが起こしてくれればよかったのに。」


「バカやろう、起こすわけがないじゃん笑笑

だって、寝てる時のてんちゃん、めっちゃ面白いもん。」


「どういうことよ、それ笑笑」


「そりゃあ、ねぇ」


かなでちゃんと陽葵ちゃんが顔を見合わせて笑っていた。どうやら、私の寝顔が面白いらしい。


「それより、早く家庭科の準備しなっ!かなでちゃんもてんちゃんも遅いんだから。家庭科は移動教室でしょ。」


「あれ、志音ちゃんは?」


かなでちゃん達と話していて気づかなかったが、教室から志音ちゃんが消えていた。


「いつものやつじゃない。早く準備して、先行っとこ。どうせ、保健室やろうしさ笑笑」


「それな。多分、サボってるんだよ。てんちゃん、早くしてよ」


「あっ、うん。」


かなでちゃんと陽葵ちゃんはそう言った。でも、ふとその言い方はないんじゃないと思ってしまった。


確かに、志音ちゃんはよく授業を抜けて保健室に行ってしまう。でも、きっとそれはサボりじゃない。なにかあるけど、私たちにそれを言いたくないから言わないのだと思ってる。


なのに、それを簡単にサボりだとか、いつものやつだとか言うのはおかしいと思う。それを聞いた志音ちゃんはどう思うのだろう。きっと、悲しい気持ちになるに違いない。友達なのにどうしてそんなことが言えるのだろう。


思うことはどんどん増えてくる。


2人はそんな人達だとは思ってもなかった。


もしかしたら、自分も裏で言われているのかも。


4人の友情に傷が入った瞬間だった。もしかしたら、始めから友情なんてなかったのかもしれない。そう思ったら、2人の後ろ姿が一気に真っ黒に見えた。


思わず、スカートの裾をぎゅっと握りしめた。


そんなことを思っていたら、家庭基礎の授業が終わっていた。さっきのことで頭がいっぱいで、授業は何も入ってこなかった。


「よっしゃあ、終わったー!!」


かなでちゃんはそう言うと、教室から閃光のような速さで出ていった。


「てんちゃん、うちらも行こっか。」


「うん、そうやね。」


教室への帰り道、かなでちゃんはこう言った。


「志音ちゃん、サボれていいなぁ。今日の授業からして、絶対勝ち組じゃん笑笑」


「確かにそれな。」


陽葵ちゃんもそれに納得していた。


悪気もなくそう言うことを口にするのはおかしいんじゃない。


心の底からそう思ったけど、口から出す勇気はこれっぽっちもなかった。


ふと横を見ると、いつもの桜の木の枝が週末の強風のせいでポキリと折れていた。


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