第三話
入学式からかれこれ一ヶ月が経った。
今日もいつものように朝が来て、変わらない電車に押し込まれる。
高校生活ってもっときらきらしているものだと思っていた。
これが最近の口癖だ。
確かに中学の時よりもきらきらした友達は出来た。
入学式の時に話しかけてくれた陽キャであろう杉咲かなでちゃん
席が斜め前で運動が苦手なのにノリで運動部に入っちゃった立川陽葵ちゃん
同じ部活で仲良くなった立花志音ちゃん
入学して以来ずっとこの三人と一緒にいる。
それでも高校に入学して失ったものが多すぎる気がする。
まずは友達。
確かに友達はできた。一緒にいて楽しい。それでも、いつからか3人から少しだけ遅れて歩いてる自分がいる気がして、時々友達が嫌になる。
二つ目は勉強。
数学が分からなくなった。確かに難しくなるのは分かっていたけれど、みんなみたいに難しい数学に適応出来なかった。毎日泣きながらたくさんの宿題をこなすことが嫌で嫌で仕方がない。
でも一番悲しかったのは、真奈ちゃんと疎遠になったことだ。
あれだけ長い期間一緒にいながら、その関係は一瞬にして壊れていった。
そう、真奈ちゃんには『まきちゃん』という友達が出来たのだ。同じ電車に乗る同じクラスの子らしく、自分と雰囲気が似てるのだと真奈ちゃんは言っていた。そんな話を聞いた数日後、真奈ちゃんは私にこう言ってきた。
「明日から、まきちゃんと一緒に登校するね。まきちゃんに誘われちゃってさ笑笑、てんちゃんもまきちゃんと一緒だと気まずいでしょ。」
思わず「うん。そうだね。」とその時の自分は答えてしまった。
それから、一緒に登校することは無くなった。今では、たまに帰りの電車で楽しそうに話す姿を見かけるぐらいだ。
こんなんだから、どうしても高校に失望してしまう。高校が全てを奪った気がするからだ。決してそんなわけじゃないのに。
そんなことを思いながら、嫌々電車に揺られていたら、行きたくない学校の最寄駅に着いていた。
いつものように自転車のペダルを漕ぐ。いつもよりもペダルが重たい気がする。
この自転車はどうせ学校に着いてしまう。そう思うだけで反対方向を向きたくなるけど、そんな勇気はこれっぽっちもない。
そんなこんなで結局学校に着いてしまった。今日もどうせ小テストは落ちるのだろう。そう思ってしまう自分の横を熱心に小テストの勉強をしながら歩く同級生が通っていった。
「おはよっ、てんちゃん」
「あっ、おはよ。志音ちゃん」
「あー、また暗い顔してる。暗い顔は気分まで真っ黒にしちゃうよ。これ、てんちゃんがうちに言ってくれた言葉じゃん。今のてんちゃんにそのままお返しするわ。」
「そーだよね。明るく行かなくっちゃ。」
そう言って、精一杯の笑顔を見せた。今日も明るい桜野てんという仮面を被ろう。そうやってここまで乗り越えてきたのだから。
「おっはよー、かなでちゃん」
「おっはー、今日元気じゃん笑笑、てんちゃんはやっぱり元気が似合うよ。」
「せんきゅー、ありがとっ!あっ、陽葵ちゃんもおはよー!」
「朝から元気やな笑笑、おはよう」
今日も今日とて、仮面を被っている。
教室の窓から見える桜の木は、朝の太陽を無理やり浴びせられているように見えた。
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