第一話

『間もなく1番線に快速〇〇行きが到着します。黄色い線の内側に下がってお待ち下さい。』


 7時10分の駅のホーム。反対車線の電車は県庁所在地行きだからか思ったよりも多くの人が電車に吸い込まれていく。


「あぁ」


気付かないうちに自分の口からため息が溢れていた。急に現実を突きつけられた気がした。


新学期にも関わらず電車に吸い込まれていく大人たちの目に輝きはなかった。みんな着させられたようなスーツを着てスマホを見ていた。いや、ちゃんとスーツを着て仕事に行くことを自分自身に強要されているのかもしれない。


去年までは、友達と新しい担任の先生を想像しながら楽しく登校していたはずなのに・・・


とにかく現実というものを一瞬にして理解した気がした。


新学期とは全員にとって輝かしいものではないのだ。


15年生きてきて初めて知った事実だった。知りたくはなかったが、知らなきゃいけないことなのかもしれない。


スカートを揺らす風が少しだけ冷たく感じた。


「あっ、てんちゃん!電車まだ来てない?」


声をかけてきたのは佐藤真奈。小学校からの親友で同じ地域の高校に入学することになった。

つまり、乗る電車は同じということだ。


「真奈ちゃん!制服めっちゃ似合ってんじゃん。やっぱ、東高の制服は可愛いよね!」


「ありがと。そんなてんちゃんこそ似合ってますやん!やっぱ県内トップの高校の制服は地味でも憧れますわ。なんか一目置かれてる感じ?」


「地味って言ってるよ笑、でも憧れてた高校の制服だから着れたのは普通に嬉しいよね。てか、真奈ちゃんめっちゃJKじゃん。きらきらしてる。この制服で横に並びたくないわ!」


「これくらい普通じゃない?てんちゃんこそもっとJKしなよ、高校生ははっちゃけてなんぼよ。今度うちが髪の巻き方とか教えたるわ」


「ありがと!でも遠慮しとくわ、こちとら真面目に勉強するルートの高校に入学してるんよ」


「盛大なマウントやん、まぁ確かにそうやけど。」


真奈との会話はずっと変わらない。新学期の学校を楽しみにしていたあの頃を思い出させてくれた気がする。少しだけ胸のわくわくが戻った気がした。


「てんちゃん、電車来たよ!早く乗らんと後ろの人に迷惑かけるで。」


「そうやな、早よ乗ろう」


電車は案の定座れなかった。でも、真奈と一緒なら立って乗る電車も悪くない気がする。


『間もなく終点〇〇に到着します。4番線、お出口は左側です。ドアから手を離してお待ちください。』


電車のドアが開いた。たくさんの人が一気に放出されたせいで、階段は人しかいない。なんか都会だなぁと思った。


「てんちゃん、うちこっちやから。また放課後ね」


「あっ、そっか。気をつけてね」


真奈は一瞬で消えていった。



改札を出た瞬間、スカートを揺らす風はさっきよりもほんの少しだけ暖かかった気がする。




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