やっと初日が終わった。
この学園ではビュッフェスタイルではあるが、最低限食べなければいけないプレートを平らげる事を前提に、自ら好きな料理を取る事が出来る。
大盛り、中盛り、普通盛り、小盛りと並んでいる。
先ずは低学年から教師の前に並び、食事のトレーを下げる場所にも王都から配属された騎士達が交代交代で見張っている。
大量に残せば名簿に記載され、次の食事では最後尾へ並ばされ、好きな料理を受け取る事が1週間は不可能となる。
コレは王族から資金提供も得ているからこそ、食品とて王族から賜ったモノ、それを疎かにする等とはもっての他だと。
トリスタンが食事もせずに見張った事から、騎士科の教師達が進んで行っている事なのだが。
「また、か」
『気にしない気にしない、ご飯を食べる事に集中して』
《ですね、周りを気にし過ぎるのははしたないですよ》
『手厳しいですねライリーは、ふふふ』
もう全員が知っている、コレは毎年の事。
好き勝手に食えると思っていた爵位持ちの子供達は、早速大騒ぎを始めた。
だが、爵位を持つ者だからこそ、王族に招かれたなら残す事など許されない、王自らが育てた物が必ず使用されるのだから。
勿論、具合が悪くなる場合は配慮はなされるが、それでもあまりにも排除しなければいけない量が多ければ、そもそも招かれる事は無い。
万が一に招かれたとしても、食べられない物の一覧が王族へ届けられた段階で、会が無くなったと伝えられ、結局は2度と招かれる事は無くなる。
それでも必要な人材だと思われていれば、食事会では無くお茶会か何かへは招かれるが、対した能力が無いなら王族の参加する会へは2度と出席は出来無い。
「全く、親が教育すべき事を」
『新エミールとソフィー主義者なら仕方無いよ、都合の良い部分を抜粋して良い様に利用してるんだから』
《意図的な言い訳の捏造に一々気分を害しては体に毒ですよ》
「エミールとソフィーの全集を、いや、却って良く無いか」
『先ずは幼児教育論。それに今は帝王学と内訓学を都合良く解釈されない為の時期だって、ギャレット準男爵が言ってたよ』
「あ、ユートピアについてどう思う、いますかしらマーカス」
『様々な理想を詰め込んでから削ぎ落す、そういった議論を重ねるべきだと思います』
『素晴らしいですわ、是非とも今度構想いたしましょう』
《と言うか、ちゃんと食べて下さい》
「あ、すみません」
『ですね、ふふふ』
転生者のもう1つの秘密。
それはより進んだ年代から来ていた事なのだが、それは王すら知らない事。
転移者も遅れた時代だなと思いながらも、転生者同様に秘密にしていた。
下手に先んじては先導者だと思われ兼ねない。
既に最先端を進もうとして先んじた治癒能力者が、悪魔付きだと火炙りにされていたからだ。
そんな事を微塵も考えない愚者が騒ぐ食堂をガラテアとベアトリーチェが無事に出ると、着替えや洗面用具を持って浴場へ、湯浴みの時間。
暖かい水路からお湯を汲み、洗い場で髪や体を流すシステム。
夏場は少し暑いが、まだ肌寒い春先ではありがたい存在。
流石におっさん達は最後に入り、子女達の裸を見る事も無く、無事に湯浴みを乗り切った。
「はぁ」
『慣れないとだよ。さ、髪を梳かそうね』
「すまない」
『まぁコレは簡単な事だし、イザとなったらライリーに頼むと良いよ』
「いや、寝間着姿で会うのはダメだろう」
『あぁ、そっか』
あのギャレットでも間抜けな事を言うものだなと、中央管理棟からガラテアと共に、トリスタンは女子寮へと向かった。
部屋も無事なまま、再度戸締まりをしっかりとし、私物の常夜灯を付けベッドへ。
そこで回し読みをした結果を思い出しながら、小さなメモ帳に、小さな文字で書いていく。
クラブ。
お茶会。
園芸。
乗馬。
鷹匠。
社交会。
騎士候補応援部。
この最後の応援部だけが異常に異色だなと思いながらも、公女様がご安全に人々と知り合える様にと考えながら、暫し瞑想。
体の機能も子供なのだと眠気に教えられ、何とか常夜灯を消してから、眠りについた。
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