第12話

 今日は曇っている。まるでわたしのいまの心のようだ。

 校庭の色と空の色がシンクロしていた。違うのは、どこまでも続いているか、続いていないかというところ。

 哀夢が昨日、四階で文字通りした。未だにどうやったのか、何が起きたのかわかっていない。


「ねぇ、ハルカ。人間がテレポーテーションする方法ってある?」

「はぁ? そんなもんあるわけないでしょ」

「うーん。そうだよねぇ」


 昨夜から、ずっと考えている。あれはどう考えても「消えた」と言うしかない。四階から出るには階段を使わなきゃいけないし、そしたら、わたしと鉢合わせるはずだし、それに、やっぱり痕跡が残っていないというのはどういうことだろう。


 手鏡で、いつもあいつが座っている席を見る。空席だ。チャイムももうすぐ鳴るし、流石にあの怪我じゃ今日は欠席だろう……と、思った矢先。


「え」


 哀夢が教室に入ってきた。いつもなら見て見ぬ振りができたはずだけど、できなかったということは、いつも通りじゃなかった……のではない。いつも通りだったから、見てしまった。



 哀夢は、どこも怪我をしていなかった――――。



 何事もなかったかのように席に座って、教材を取り出している。鏡越しに見ても、見えるところに包帯とか絆創膏すらつけていない。

 なんだよ。それじゃあ、昨日見たのはまぼろし? 病的な白昼夢?

 悪寒がした。全細胞がいまの哀夢を見るのを拒んでいるような気がする。

 ほんと、おかしいことだらけだ。何も食べないことから、変な噂から、鳥の死体から、昨日の暴力リンチから、いまのなんともなさそうな姿から。なんなのだあいつは。

 わけがわからない。怪我なんて一夜寝ただけで治るものなの?


 いやいや、そんなわけない。もし治るのだったら、「」は「」には変わらない。


 授業の内容は全く入ってこなかったし、給食も食べた気がしなかった。ハルカが言っていた『ご飯がまずくなるぅ』がわかってしまった気がした。

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