現のはなし
生暖かい風にあたり、教室の窓からだいぶ傾いた陽を見つめて、私はぼーっとしていた。
はぁ、_憂鬱だ。
思わずため息が漏れてしまう。
確かに私は断るのが苦手だ。
だからと言ってなぜ殺人事件のあった廃墟なんていうものに行くことになってしまったのか_。
そもそも私はそんなことはしたくはないので、断ろうと思っていたのだ。
それが_はあ、本当になんでこうなってしまったんだか。
_忘れていたことにして帰ってしまおうか?
__。
「,,,,,,はぁ」
私はどんよりとした気分で、窓枠に肘をつきながら友人たちを待った。
___________
そうしてやけにテンションの高い友人と合流して、学校近くにある廃墟へ向かった。
廃墟に着いた頃、辺りはすっかり暗くなり、そこそこの広さの土地の奥の方にポツンと建つ廃墟は不気味さを醸し出していた。
「あれだよ由紀、噂の廃墟」
張りきった声で私がここに来ることになった原因_友人の加奈が言う。
「今からでも帰らない?」
「ええ、やだよ」
帰ろうと提案してみたが案の定、断られてしまった。
「__」
「ほら、誰かに見つかる前に行くよ」
そう言うと、加奈は敷地の中へとずかずか入っていてしまう。
そんな加奈の心配をしながら私は後について行く。
_止められたなら本当はよかったのだけど。
建物に近づいてみると、事件があったのが数年前とは思えないほどにさびれていた。
「_なんか、やけにボロボロじゃない?」
「んー、事件の後にいろんな人が侵入したらしいからね、不審火もあったらしいし」
「幽霊どうこうより危ないから帰ろうよ,,,」
「あ! 扉開いたよ」
「_無視するのね、」
家の中は落書きされていたり、棚が倒れていたりで、ただただ危険な感じがしていた。
「ここがちょうど事件のあった部屋らしいよ」
玄関を入ってすぐの部屋で加奈が言う。
「__」
_何か。
「どうかした?」
「うんうん、何でもない」
私の方を不思議そうに見つめる友人にそう返す。
_きっと、気のせいだ。
「そう? _じゃ、奥も見るとしますか」
そう言って移動する加奈のうしろについて私も移動する。
部屋から廊下に出て、その先の扉を開けるとそこには台所があった。
ここも先ほどの部屋と同様、皿が割れ、布が散乱し、荒らされていた。
_ガタッ
私が加奈から目を離した瞬間、加奈の立っていた方から鈍い音と小さな悲鳴が聞こえた。
「加奈!?」
「_大丈夫、なんか床が抜けてたみたい」
振り返ると壁に手をついて転びかけている加奈がいた。
「_もう、怪我してない?」
「うん、怪我はしてない」
「もう帰ろう?」
「_上の階も見ていきたい」
「今みたいに床が抜けてたらどうすんの?」
「__分かった、帰ろう」
少し不満そうに答える加奈を見て、また不安がわいてきたけれども、今はとりあえず納得してくれたようなのでよし、と思いつつ私たちは帰ることにした。
__。
「____」
ちょうど玄関まで戻った時、何か声が聞こえた気がして私は振り返る。
「どうかした?」
「_うんうん、なんでもないよ」
「本当に?」
「本当だよ、だからそんな怪訝な顔してないでさっさと帰るよ」
私がそう言うと、加奈はプイっとそっぽを向いて建物から離れていく。
「______!」
___。
私も加奈の後について歩き出そうとした瞬間、誰かに呼び止められたような、そんな気がした。
__助けを求めるような、苦しそうな声で。
それでも、これ以上加奈に怪しまれたくなかった私は衝動を抑えながら、敷地の外へ後ろ髪をひかれながらも歩き出した。
___。
加奈に廃墟へ連れていかれてから数週間が経った。
最後に聞こえた声が忘れられなかった私は、家に帰えるとすぐにあの場所で起きた事件について調べた。
その時は時間が経てばこの胸のモヤモヤも消えるだろう、そう思っていた。
しかしそのモヤモヤは消えるどころか日に日に濃くなっていった。
_そして私は今、またあの家の前に一人で立っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます