4.昼過ぎ 邂逅



また天井を見ている。


あれから何も変わったことはなかった。


何も変わらないまま、また何度も同じことを繰り返した。


この布団の上で起きて、カップ麺を食べて、シャワーを浴びて、時間を潰して_そして、またこの布団の上で目覚める。


それを何度も繰り返した。


俺はいつもと同じように布団をどける。


そうすればぬくもりがあたりへ散ってゆき、代わりに寒さが肌を刺す。


赤く燃えるような陽の光に伴って、斜めの壁にはぬうっと黒い影が伸びる。



下に降りて行こうと、屋根裏の扉を横にスライドしていけば、やけに大きい音をゴロゴロとたてながら道を開ける。


微かな陽の光に照らされた暗い階段が姿を現す。


二階と屋根裏を繋ぐ、梯子のように急な階段を降りようと体を階段に向け、手と足を階段へ置いた時、ふとすべてが嫌になるのを感じた。


何でもない、何のきっかけもなくそんな感情が湧き上がってきた。


気が付いた時には手が階段を離れ、俺は開いたままの自分の部屋の扉を見ていた。


そして視界は回転していき、天地が逆さになったかと思えば、ぐわんぐわんと向きが変わる。


最後には嫌な違和感が残り_



俺はまた布団の上にいた。



こうなってしまえば何かのブレーキが壊れたかのように、ループを繰り返していく。


思いつく限りの方法で、短いスパンで、溜まりに溜まった何かを吐き出すように、ただ繰り返す。


何かを壊しながら、何かを削りながら、ただ繰り返す。



_すべてを吐き出し終えた頃には虚無感のみが残って、何をするでもなく、ただ眠る。


眠って、眠って、眠って、_夢さえ何も見られないまま、ただ眠り続けた。



落ち着きを取り戻した頃、部屋は真っ暗だった。


何回くりかえしたか、どれほどの時間が流れたのかも分からない。


ただとてつもなく長い時間こうしていたような気がする。



あんなに無茶苦茶したというのに、体に何一つ不調のないことが気持ち悪さを引き立てる。



しばらく布団でじっとしていれば、ふとした瞬間に部屋は赤く照らされ、いつもの景色が現れる。


俺は息を整えると、部屋を物色することにした。


棚を漁っていると買ったのはいいものの、そのまま一度も読まずに棚の奥の方で放置されていた本を見つけた。


今見つけるまで存在すら忘れていた。


ちょうどいいものを見つけたと思い、パラパラとページをめくってみた。


_ぼやけている。


はじめこそ普通の文が連なっていたが、それはページをめくることにまるでピントがずれていくのかのようににじんでいった。


「_なんだ、これ?」


「_」


俺は何となく気にしちゃいけないかがして、それをそっと元の場所に戻した。


「_シャワーでもあびるか_」


何かモヤッとした感情を感じた俺は、そのあとシャワーを浴び、何度も読んだ本を読んで過ごした。


今回も何も変わらない。


いつもと同じように過ごした。


_いい加減本にも飽きて目をつぶって今回が終わるのをじっと待っていると、ゴロゴロと何かの転がる音が暗い部屋に響いた。



それは_



何度も_何度も、何度も、



ループの中でうんざりするほどに聞いた、






俺の部屋、屋根裏の扉が開く音だ。

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