第6話 プロローグ / 薔薇の王国編(3)
大変なことになってしまった。
ましろは困り顔である。
理志とは違う部屋に通されたのは仕方がないだろう。しかし、同性であるのだから桜と同じ部屋に通してもらいたかったというのが本音だった。いや、ほかの同性たちは同じ部屋のこともあるようだが、ましろは薔薇の紋章の上に現れたロドンの聖女である。だからこそ、たった一人で違う部屋に通されていた。そして、ましろが困っているのはそれだけではない。
目の前にいる使用人をましろは知っていた。昔からいるメイドで昔のましろにとっては親友だった人物――チェリッシュ=ブルユバーだ。紫というよりは桃色に近い瞳を持つ彼女はハウウェルの遠縁であるらしい。まるで小麦畑のような金色の髪を後ろでお団子にして、クラッシックなメイド服に身を包んでいる。見とれるような美女であることには間違いない。昔も求婚が絶えなかったのをましろはしっかりと覚えている。
美しいドレスを手にして、チェリッシュは次々にそれらをましろにあてがう。晩餐会を開くと言い出した王たちに、ましろたちは急遽そういった服装に身を包む必要がでてきたのだ。
「聖女様は何色でもお似合いになりますね。しかし、濃い色よりは淡い色がお似合いです」
薄い緑いろ。薄い水色。はたまた黄色に、薄い桃色。そう言ったものを一通りあてがう。そうしてチェリッシュは鏡に映るましろをみて困り顔をした。
「おそらくは白が一番お似合いになりそうですが……」
「この国では忌まわしい色なんですよね」
ましろの問いかけに、チェリッシュはうなずく。
「白は魔女の色とされ、この国では黒と並び不浄なものとされています」
――魔女。
ましろはその言葉に目を伏せた。
ましろはその魔女であった記憶がある。この国の第二王女であるアンナであったのは間違いない。アンナは国民を愛していたし、国民もまたましろの前世であったアンナをあいしていた。それがどうしてそうなったのかはわからない。いつの間にか周り味方がいなくなって、アンナは一人この城に幽閉されたのだ。
そうして事態を把握したのは自分と誓いを立てた『
――あなたは俺たちをだましていたんだ!
その言葉をかわぎりに、ないことばかりを言われる。免罪であると証明することも許されなかった。話も聞いてくれなかった。ただ、アンナは自分の役目を悟った。
国民たちの不満は確かに高まっていたし、アンナがどう頑張っても国の状況は好転することはなかったのだ。そんな中の出来事である。それが噂によって一気に不満がふきだし、そのすべての矛先がアンナに向いたのである。
アンナは自分の無実を証明することよりも、汚名を被ったまま自らの死を選んだ。
――なぜならそうすれば、周りがきっと幸せになるのだと信じていたからだ。
現にこの国は民はいまや幸せそうである。
兄や姉であった人も、かかわりがあった人も、騎士であった人も元気に過ごしているのだとはましろには見て取れた。
だからこそ、ましろはここにいてはいけないと思っている。理志も桜もつれて、元の世界に戻らないとならない。
「私はこの王城にふさわしくはありません。元の場所に帰らないと」
「そんなことをおっしゃらないで。この国は黒い茨に悩まされているのです。きっと王はそれを嘆かれて聖人様を召喚しようとされたのでしょう」
「黒い茨?」
「闇の化身ともいわれています。この国には見えないところで問題は山積みなのです」
チェリッシュはそういって、うすい桃色のドレスをましろにあてがった。
「『
その言葉にましろは首を傾げた。それをみたチェリッシュは説明をする。
「もしや、聖女様のお世界には『
「……はい、いません」
「この世界では三種類の人種がいます。『
チェリッシュはそういってドレスを置くと、つぎは髪を結うかざりだと宝石箱から髪飾りをとりだした。
「『
ましろはその説明に困った顔をする。そうでないことをましろは知っている。『
アンナが生きていた時代はまだ差別は落ち着いていた。なぜならアンナの父親である青薔薇の王がそれを窘め『
「黒腐病は『
「その病気は本当にうつるのですか?」
ましろはそうチェリッシュに尋ねた。チェリッシュはなんともないように「うつるといわれていますよ」と答える。
「エレリーナ様がおっしゃるのだから間違いありません」
チェリッシュの返答にましろは口をつぐむ。あの病気は『
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