第7話 プロローグ / 薔薇の王国編(5)
理志がやっとのことでましろに合流できたのは、晩餐会が始まってからだった。どうもフューネ王とエレリーナの兄妹は理志を気に入ったようでそばに置きたがったのである。おそらくはハウウェルの言葉も理志をそばに置きたがる理由に含まれているのだろう。理志がましろの様子をうかがうと、ましろは端のほうの席で向かいの席に座っている他国の服に着替えた桜と話すくらいだ。まぁ、ハウウェルは世話を焼きたがっているようだが。教師である
そうこうしているうちに、王たちの話題は『
「闘技大会、ですか」
「ああ、冬に行うものでな。国ごとで競うのだ」
「『
「先ほどの話を伺うに、『
「ああ、しぬ。だが、『
『
「そうだ、『聖人』達はみな『
フューネ王はそういって赤色の酒を傾けた。薔薇の香りがするその酒は、ロドンの田舎で造る酒である。酔いが回ったフューネ王はからからと笑った。
「聖人たちを参加させてみてはどうか」
フューネ王の言葉に、面白がった国王たちが賛同していく。『
「闘技会では『
「しかし」
「おぬしはなかなか見る目がある。しかし、反論はするな。『
その言葉を聞いて
「しかし、フューネ王よ。どちらの聖人を参加させるのだ」
「そうだなぁ。どちらも、はどうだ」
フューネ王は酒をあおった。
「どうせ、『
「それもそうだな」
フューネ王の言葉にカラカラと周りが笑う様子は滑稽である。
ましろは交わされる会話をきいて、信じられないものを見ているかのように周りを見た。
――この人達は何を言っているのだろう。
ましろは信じられなかった。『
今にも泣きそうな顔をしているましろに、理志は隣にいれないことを悔やむ。ここはヒーローたちがどうにかするのだろうとおもっていたが、何もする気配はない。飛び交う言葉に、ついに、ましろがほろりと涙を流した。ぽろぽろとこぼれる涙に、桜は『
「あら、どうして泣くの?」
エレリーナの問いかけに、周りの視線がましろにむいた。
「どうしてそのようなことをおっしゃるのですか。その方たちも私たちと同じように生きているのでしょう?」
ましろの問いかけに王たちは笑った。エレリーナや一部の家臣たちもだ。
「もう一人の聖人よ、『
「あれらは剣が折れない限り死ぬことがない化け物よ」
「兵となれば国のために働くだけましだがな。誓いという首輪がなければ野蛮な生き物だ」
カラカラと笑う周りに、ましろは唇をかみしめた。
「そこまで泣くのなら、どれだけ野蛮な者たちかわからせてやろう。ルジェ、もう一人の聖人様を黒薔薇の屋敷にお連れしろ。部屋もそこでよいだろう」
フューネ王の言葉に、また笑い声がきこえる。あの死にぞこないの集団に? けらけら。げらげら。佇んでいたルジェは「しかし」と反論しかけた。
「あの近くは黒き茨も」
「聖人ならばどうにかできよう。それとも何か。反論するか?」
「……いいえ」
そう首を左右に振ったルジェに、理志は勢いよく手をあげた。空気など読んでいられなかった。ここでましろとはぐれてしまえば、理志がこの世界にきた意味などなくなるからである。
「フューネ王、俺も行きたいです!」
「ふむ? リシよ、なぜだ」
「この国で役に立つには、いろいろ知ったほうがいいでしょう?」
理志の言葉に、おお、と王たちは感心したように声を上げる。お前はなんとこの国思いなのかと、 フューネ王は満足げにうなずいた。
「だが、護衛はつけよう。近日中に護衛の選別を行う。お主はそれまで城に――」
「護衛なら、先ほど俺の部屋にいた同い年くらいの人がいいです!」
「ふむ? 誰だ?」
「箱庭出身のイオリです。確かに腕は立ちますが……」
ルジェがそう言えば、フューネ王は少し考えた。桜もまた、あちゃあと内心頭をかかえる。イオリという人物はスピンオフの主人公になるほどの人物である。そして、『
「まだ他の者と会えていないからそれを選ぶのかもしれないな」
「明日にでも腕利きを集めましょう。闘技会で負けるのはお嫌いでしょうから」
ルジェの言葉にフューネ王はからからと笑った。それもそうだ、と。理志はそうじゃないんだよ、と内心毒づいてみせる。しかし、反対したところでおそらくそれは叶いそうにない。ただ、ハウウェルが面白いものを見るように少し笑みを浮かべた。
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