外伝 干支詣り

干支詣り


年末年始は神徳士(じん)も巫女達も等しく多忙になる期間である。

「御参りありがとうございまーす!!」

山を登って八咫神社にくる参拝客を迎え、

笑顔を振りまいていく古代の巫女衣装を翻すは穢れなき純白の雪ように陽の光を受けて煌めく白い髪、艶やかな赤い宝石にも似た緋銅色の瞳をした少女、八咫陽歌やたの ようかだ。

「えっと、次は……」

「陽歌」

その声に顔をあげれば紫檀色の瞳と鴉の純黒の羽色のような艶やかな長髪の結陽《ゆうひ》姉ちゃんが優しく微笑み私の頭を撫でる

とても温かくて、胸が熱くなって陽だまりの中にいるような気になる

「んー?なーにー?」

「お昼、まだだったでしょう?作っておいたから休憩してきなさい。」

「え、もう?」

社務所内に備え付けられている和風の木製で出来た漢数字時計を見れば時計の針は午のうまのこくを指していて……正午を過ぎていた。

それを認識した途端お腹の音が鳴った

はうっ、とお腹を手で押さえると、くすくすとゆうねぇが口を手で隠すようにして微笑った。

「ほら、ちゃんと食べないと大きくなれないわよ」

「むー……分かった!食べてくるね!」

とりなす様に頭を振ってゆうねぇの優しい目を見つめ返して微笑んで、その場を離れた。

社務所から出て境内からは少し離れた家に向かう途中で目の前を何かが横切った。

「今のなんだろ……あ」

白い影を探していると山奥に向かう獣道の近くに大きな白い兎がいるのが見えた

「こんな所に?不思議!もしかしてお腹空いてるのかな?」

だとしたらご飯分けてあげなきゃと思い立ち兎の方へ歩む

しかし、白兎は獣道へと跳んでいき見えなくなる

「あ、待ってー」

白兎をはや足で追いかけていくと、薮が深くなり姿も見えにくくなる

こんなに深いと怪我してるかもしれない、そう思うと足を早くさせる

昼だというのに何処か薄暗い雰囲気が辺りに漂い、

気付けば周りは林の様に深く生い茂った草があった

「あれ、ここ何処だっけ?そんなに遠くに来てたかな?」

というか、こんな場所あったかな?

くぅー、とお腹の音も鳴り響いて、そういえばお昼まだだった事を思い出す

──どうしよう、兎さんも大丈夫かな?

まだ探すかどうかを考えてると遠くから鈴の音が聴こえてきた

振鈴、神楽を舞う巫女の持つ神楽鈴の音だ

しかしあちこちから聴こえてきてどこに行けばいいのかが分からず立ち止まる

「どっちに行けば帰れるのかな……?」

胸が熱くなるような気がして豊満な胸を押さえる。

その時、上空を飛翔する音を聴いた

音もなく風を切る音だけが聴こえるその特徴的な飛行音は神のウツシミの戦闘機だ

「……あ、神様だ」

その戦闘機は他の神徳士の成るウツシミとは違った雰囲気で、何より神秘的で見ていると心が満たされるような幸福感があった。

それは神々の領域と言ってもいいものだ

神徳士が神と一体化してウツシミとなれば近い領域まで行くがここまでではないとゆうねぇから聞いていた

袋のように大きく後ろが膨らんだ白と緑色の機体はその場で制止している

まるで私を待っているかのよう

「もしかして案内してくれるの?」

心臓が高鳴り、その戦闘機に向かって語り掛ける

言葉はない、だがその戦闘機は転換して飛んでいく

後を追う為に走っていき、暫くすると沢山の鳥居が現れた

「こんな所に沢山……」

鳥居を潜り進んでいくと立派な神社が存在していた

白い兎と袋を持った兎達が沢山いた

奥には本殿と思しき所に戦闘機が収められているのも分かった

その前には神社には必ずある賽銭箱もあり、その近くに先ほどまで探していた白い兎がいた

「あ、さっきの!無事だったんだね、よかったー」

歩み寄るように近付いて手を差し出すと手の匂いを嗅ぐようにしたかと思うと舐められて温もりとくすぐったさが手に走る。

「そっかー、こんなにたくさん仲間がいたんだ、寂しくないね!」

心から良かったと息を吐いた

「あ、そうだちゃんと神様に感謝しなきゃ!」

ゴソゴソと巫女衣装の懐に入れた財布を取り出して穴の空いた硬貨を取り出して近づく。

賽銭箱に硬貨を入れて二礼二拍一礼を深く、心を込めて深く祈る

「今年もみんなと沢山いい事がありますように」

祈りを終えて顔を上げるとそこは先ほどまでいた獣道の前の風景が広がっていた

「………あれ?さっきまでいた所は?」

辺りを見回しても先程までの鳥居はなかった

しかし、お腹の音が鳴ってそういえばご飯食べないといけない事を思い出して家への帰路へと急いでつこうと振り返る前に先ほどまでいた場所に届くように深く頭を下げる。

「あけましておめでとうございます!今年も宜しくお願いします!」

元気よく大声で先程までいた場所に届く様にと声を上げ、振り返りそのままその場を後にした。

上空には戦闘機後部が大きく膨らんだ白い袋のようなものと緑色をした戦闘機が陽歌を見守るようにその場に存在していた。

そして見送るとそのまま何処かへと飛び去って行った。


END

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機神巫女 神無創耶 @Amateras00

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