変化

『兄さんおめでとう!』

『瀬奈……凄い子だったのねぇ』


 昨晩、雪と母さんに伝えた時に帰ってきた言葉が耳から離れない。

 二人とも俺のことを誇らしいと、凄いと祝ってくれた……それはとても恥ずかしく思ってしまったけれど、それ以上にとにかく嬉しかった。

 Sランクに上がったことと合わせ、覚馬さんと鏡花さんも二人のためにすぐ動いてくれたので、心配はそこまでないものの万が一が起きても大丈夫だ。


「お前……そりゃ驚くだろ!!」

「先生が話して机を蹴っ飛ばしちまっただろうが!!」


 ということで、早速俺は友人である真一と頼仁から詰め寄られていた。

 一応二人を含め他の人を驚かせることがあるとは伝えていたのだが、流石にSランクへの昇格とは当然思われてはいなかったわけだ。


「まあなんだ……その、色々と全力を出した結果というか……」

「……お前ってやつは」

「……ははっ、本当に凄いよ瀬奈は」


 なんで隠していたんだと、なんで何も言わなかったんだと彼らは言わなかった。

 それはもしかしたら俺の家族のことを把握しているからだろうし、一緒にダンジョンに潜る中で少しずつ察していたのかもしれない。


「……私たち、普通に話しかけても大丈夫?」

「そ、そうだよね……大丈夫かな?」


 沙希と夢に至っては声を掛けるのすら恐れ多いと言わんばかりなので、俺としては今まで通りにしてくれると助かる……そうとしか言えない。

 もしかしたら余所余所しくなる可能性も考えてはいたものの、今までに彼らと積み重ねた友情はしっかりと結ばれていたようだ。


「皇さんは……知ってたんだなこれを」


 俺の傍に居た刹那は頷いた。


「今となっては結構前だけど、瀬奈君と戦うこともあったからね。その時は負けたりしたけど、そういうのもあって色々と知ったのよね」

「なんかいきなり色んなことを聞きましたけど!?」

「す、凄いんだね瀬奈君!」


 っと、このように俺たちは盛り上がっていた。

 そんな俺たちを見つめるクラスメイトの反応は両極端で、今までの俺を知っているからこそあり得ないと見つめてくる視線……そしてもう一つは高ランクの探索者に対して向ける憧れを秘めたような視線――この視線の面白いところが、彼らの中にはかつて俺を馬鹿にしていたAランクの探索者も含まれており、特に絡むつもりはないが分かりやすいなとも思えてしまう。


「あ、それじゃあ私たちは戻るね!」

「ま、またね!」


 女性陣が自分の教室に戻り、真一と頼仁も席に戻った。


「彼らは受け入れてくれたわね? 良かったわ本当に」

「そうだな……実は少し距離が離れたりするかもと思ったんだけど、そんなことはなくて安心したよ」


 ちなみに他所のクラスからも見に来る人たちが居たりして動物園のパンダのような気分だった。

 それでも特に話しかけたりはされなかったのは俺がSランクになったからか、それとも刹那が常に傍に居てくれたからか……まあどっちでも構わないか。


「それじゃ、私も戻るわね」

「あいよ」


 背中を向けて刹那も離れて行った。

 なんつうか……彼女は当然男というわけではないんだけど、常に気遣ってくれることもそうだけど探索者としての実力も刹那は兼ね備えている。

 そんな彼女を見ているといつも考えることがあるのだ。


(でっけえ背中だぜ……)


 物理的な意味ではなく、頼りになるという意味での大きな背中だ。

 そんな彼女を支えられるように、同時に守れるように……俺もこれから、一層強く在り続ける必要がありそうだ。

 もちろん刹那はそこまで気負う必要はないと言うだろう。

 俺も別に気負っているつもりはない――ただそうしたい、ただ彼女を守れる強い人間で居たいんだ。


(……まあでも、あまり実感はないし高校生として眠気と戦う授業ってのは何も変わらないんだなぁ)


 当たり前だろうと、俺は自分にツッコミを入れつつ授業を受けるのだった。


▼▽


「……うん? あれは」


 昼休みになり、相変わらず視線を受ける中で俺はとある二人組を見つけた。

 それは寺島と式守――ランキング一位と三位というSランクの組み合わせだ。二人は俺を見ると表情を変え、特に式守に関しては楽しそうに笑って近づいてきた。


「よう。色々と聞かせてもらったぜ? あの時の力の片鱗……やっぱりそういうことだったのかってな」

「ま、心境の変化があったんだよ」

「くくっ、良いじゃないか。また機会があったらサシでやり合おうぜ?」

「勘弁してくれ」


 別に機会があろうとなかろうとそこまで対人に興味はないんだよ俺は。

 人に対して武器を向けるのは避けられない戦いであることと、守るべきもののために戦う……これこそレギオンナイトの在り方だからな。

 というか式守の奴、随分と人懐っこい感じで接してくるようになったなと驚く。


「なんかお前……いや、何でもない」

「言いかけたのなら最後まで言えよ」


 ごもっともだな。

 さて、そんな風に式守と話をしていると寺島も声を掛けてきた。


「やあ、君のことは聞かせてもらったよ。Sランク昇格おめでとう」

「サンクス」

「これでまたランキングを気にする必要が出てきたなと思ってるよ。皇さんだけでじゃなく、君のことも考える必要がありそうだ」

「その必要はないって。俺はランキングに興味はないからな」


 そう、俺はランキングに興味はない。

 ただそう伝えると寺島の表情が少し硬くなった気がしたが、反対に式守は俺の肩を叩くようにして笑った。


「ま、あんな美人の彼女が居たらそんなもん気にはしねえよなぁ?」

「そういうわけじゃないんだが……」


 いや、あながち間違いじゃないかと取り敢えず頷いておいた。


「ランキングに興味がない……? Sランクなのに? 力を持っているのに?」

「えっと……全然興味ないな」


 なんか……怖いぞこいつ。

 それからすぐに教室に戻ったので二人とは別れたが、色んな方面にもう自分のことが伝わっているんだと思うと少し気が重くなる。


「慣れるしかないな」


 そう呟き、俺は教室に戻るのだった。

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