やっぱり刹那は凄いらしい

「……ふわぁ」


 眠てえ……死にそうなほどに眠たいぜ。

 高校生活だけでなく、中学校の時もそうだったが定期的に全ての生徒が集まって行われる全校朝礼というものがあるのだが、今の俺は正にその苦行を受けていた。


「であるからして~探索者はダンジョンに励み、普通科の生徒は勉学に励み――」


 校長の話はありがたく聞くべきなんだろうが、それにしては長ったらしい話なのは勘弁してほしい。

 俺以外にも眠たそうにしている生徒、早く終われと呪詛を呟いている生徒も様々だし……取り敢えずはよ終わってくれ。


「次に、本学校における優秀生徒の表彰となります」


 そこで僅かなどよめきが起こった。

 俺の視線の先では刹那を含めた数少ないSランク生徒が壇上に上がり、校長から賞状を受け取っていた。

 刹那を合わせて四名のSランク探索者は当然有名ではあるのだが、やはり四人ともが非常に容姿が整っていることもあってもはやアイドル扱いである。


(あ~あ、女子に関しては黄色い悲鳴を上げちゃってるよ)


 刹那以外の三人は男子だが、そちらに関しては全く絡んだことがない。

 本来なら刹那とすら関わることはなかったはずなので、そんな俺が彼らと知り合うことなんてあり得ないのだ。

 その後、無事に長い集まりは終わって教室に戻った。


「話長かったなぁ」

「俺寝てたぞ」

「マジか」


 どうやら真一と芳樹も同じことを思ったみたいだ。

 そんな中、表彰された刹那は流石だと多くの友人たちに囲まれており、一人一人にありがとうとお礼を返していた。


「他の三人も凄いけど、やっぱり皇もすげえよな」

「そんな子と一緒にカラオケ行ったりしたんだよなぁ……」


 そうだなと俺は頷いた。

 あの日、千条院との縁が完全に途切れてからというものの刹那は今まで以上に伸び伸びとしている。

 まあ仮に俺が何かをしなかったとしても、きっと解決出来ていたような気はするのだが、それでも手助けの一環になれたことは素直に嬉しいことだ。


「……あ」


 ジッと見つめていたのがマズかったのか、刹那と目が合った。

 友人たちの対応していた彼女は立ち上がり、そのまま俺たちの元に歩いてくるのだった。


「ジッと見てどうしたの三人とも」

「……いや」

「その……ごめん」


 謝るんじゃねえよと俺は苦笑する。

 刹那自身友人たちに少しあっちに行ってくるとでも伝えたみたいだけど、流石に俺たちの方に来たことを快く思わない連中も相変わらず居る。


「二人が刹那のことをすげえって言ってたんだよ」

「ふ~ん? 瀬奈君は何も思ってくれないの?」

「……いや思ってるよ?」

「そう? なら良いわ♪」


 ……本当に綺麗な笑顔を浮かべやがる。

 俺の気のせいだと思うのだが、あの日から刹那の笑顔を今まで以上に見ることが増えてきた。

 それ自体は喜んでいいことだけど、そんな綺麗な微笑みを向けられるこっちの身にもなってもらいたい。


「あまりこっちに居てもあれだし、私は戻るわね」

「何のために来たんだよ」

「何のためにってお話したかったから、でしょ?」


 そう言って刹那は戻って行った。

 真一と頼仁は今の笑顔に撃ち抜かれてしまったらしく、しばらくボーっとして俺の声に全く反応しなかった。


「授業を始めるぞ~」


 その後、先生が来て授業が始まった。

 とはいえ、その授業の半分くらいは先生がクラスの顔とも言える刹那を褒めるだけの時間だったものの、周りの生徒たちはみんな楽しそうに話を聞いていた。

 彼女はSランク探索者として確かに実力を持っているし、何よりその人柄がこの反応なんだろう。


(けど……流石、皇家って感じだな。娘の為なら後顧の憂いは断つってか)


 千条院家は確かに没落という道を辿ったが、刹那の両親はそこからあり得るかもしれない逆恨みなども含め、赤い宝石についても組合に対して呼びかけを行っている。

 それは刹那を守ることにも繋がるが、同時に他の探索者たちを守ることにも繋がるということだ。


(……でも一つだけ俺としても懸念があるんだよな)


 考える必要がないかもしれない、それこそあり得ないことかもしれない。

 そんな中で俺が思っていること、それは赤い宝石を用いたことで本来のフロアを移動した魔物の出現だ。

 あれ……外に出ることはないんだよな?

 基本的にダンジョンの魔物は外に出ることないのだが、もしも似たような力によってその制約が解かれた時……ダンジョンの外に魔物が飛び出していったらどうなるのか、それを俺は少し考えてしまう。


(ま、あり得ないか。フラグのような気もしなくはないが、現に今までダンジョンが現れてから外に魔物が出たということはないんだから)


 それでも一応、今回のように何かまた異変が起きた時の為に警戒しておいて損はないだろう。


「……ふわぁ」

「そこ、何を欠伸している」


 さーせん。


▽▼


 その日の放課後は真一たちと一緒にダンジョンに潜った。

 Bランクに昇格してから妙に頼られることも増えたが、それでも真一たちは従来のやり方を変えることはないので俺としても心から安心出来る。


「今週は三連休かぁ……またダンジョン詰めかな」


 どれだけダンジョン馬鹿なんだよと言いたくなる。

 せっかく休みなんだから女の子を誘って遊びに行くのも良いだろうに、でもそんな相手は……っと、ここで刹那を思い浮かべる辺りそれだけ仲良くなったってことか。


「うん。全然悪くはないな」


 それならいっそのこと誘ってどこかに行こうか、なんてことを考えた時だった。

 スマホがメッセージを受信し、それを見て俺は目を丸くした。

 送り主は雪で内容はこうだ。


『三連休そっちに遊びに行っても良い?』


 そんなメッセージが送られてきた。

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