庇い方が独特すぎる
「おはよう時岡君」
「おう、おはよう」
皇と模擬戦をしてから数日が経過し、その後の変化は大きかった。
それというのも学校で良く皇が俺に声を掛けてくるようになり、こうして朝の挨拶は当たり前になったからだ。
「何よ、相変わらずビックリしたような顔をして」
「だって今までと違うわけじゃん? こうして皇と言葉を交わすこともなかったし」
「そうね。けれど、今私がこの学校で……いいえ、探索者の中で一番気になっているのはあなただわ。だからこうして話しかけるのもおかしなことではないはずよ」
これ……きっとそういう意味じゃないんだろうなぁ。
もしかして? なんて淡い高校生ならではの期待を抱きつつも、皇と別れて席に座った……すると。
「おい」
「あん?」
席についてすぐに声を掛けられたため振り返ると、そこに居たのは同じクラスの大柄とその取り巻きだった。
大柄龍騎――以前に普通科の生徒を怖がらせて満足していた奴だ。
今まで滅多にこいつを会話をしたことはなかったのだが、それがどうして今になって絡んできたのかは正直……予想出来た。
「お前、一体何のつもりで皇さんと会話してんだ?」
「……はぁ」
「何ため息吐いてんだためえ!」
やっぱりかと、呆れたため息が零れた。
Sランクの皇は強く美しい、その絶対的な存在感はある種のアイドルのようなものさえイメージさせる。
(いや、アイドルのような存在そのものか)
探索科だけでなく、普通科の生徒も告白したりするようなのであながちこの考えも間違いではないんだろう。
それで、そんな皇と最近仲良くしているからこそのこいつの絡みか。
「何のつもりで、か。友人だから話してんだけど?」
「俺を差し置いててめえみたいな雑魚が話してんじゃねえぞ」
そうだそうだと取り巻きも口にしていた。
俺は別に煽り耐性がないこともなく、というよりもあまり自分のことに対して文句を言われようがどうとも思わない。
これがもしも妹や母さん、つまり家族のことに及んだりしたらキレるだろうけどこれくらいならな。
“小鳥の囀りなど聞き流せ。本当に大切な言葉のみを聞き取れ。さすれば己を見失うことはない”
これはレギオンナイトの言葉、やはりレギオンナイトの言葉は重みがあるぜ。
しかし、既に大柄は熱くなっているようだし無視を決め込んだところで更に騒がしくされても面倒だ。
「何が望みなんだよ」
「言わねえと分からねえのか、てめえみたいな雑魚が皇さんに声を掛けんじゃねえ」
「だ、そうだけど?」
「……へ?」
ヌルリと彼らの背後から皇が現れた。
さっき別れたばかりなのだが、同じ教室内で騒げば彼女にも声が届くというのも当然だ。
皇は気配を消して大柄たちの背後に回ったのだが、何故か俺は気付けたのでこれもまた日頃の研鑽の賜物だなと頷く。
「何故、私と彼が話してはいけないのかしら?」
「……えっと」
皇に問い質され、大柄はその大柄な体躯に似合わないほどに小さくなった……別にダジャレではないつもりだ。
以前にも言ったが大柄は自分と同ランク、そして下のランクで弱いと思っている人間に対しては態度がデカいが、自分よりもランクが高く、更に皇のような女の子となると何も言えなくなる。
「私の交友関係は私が決めるわ。というよりも、最初から聞いていたけど少し違った解釈をしているようね。主に話しかけているのは私の方だわ」
「うむ」
「ちょっと黙ってなさい時岡君」
「はい」
ピシッと鋭い言葉に俺は口を閉じ、事の成り行きを見守ることにした。
「そもそも、私は彼の弱みを握っているわ」
「……え?」
うん?
「私、彼の恥ずかしい所を見てしまってね。それを言わないことを条件に色々と話をさせてもらっているのよ。いわば悪いのは私の方で彼は被害者だわ」
皇さん?
「だから彼を悪く言うのはお門違いというもの。私から時岡君を救いたければ私を倒すことね。さあ大柄君、あなたにその覚悟はあるかしら?」
「っ……」
えっと……これは何かのコントですかね。
意味不明というか、良く分からない事実を捏造した皇はトドメと言わんばかりに大柄を睨みつけると、彼は流石に何も言えなくなって退散していった。
ちなみに今の発言は周りの生徒には聞かれており、何人かの生徒はポカンとしながら皇を見つめていた。
「ごめんね時岡君。周りからどんな風に見られるか、それを考慮するべきだった。ああいう人が居る可能性も考えていたけれど、せめて交友関係くらいは好きにさせてほしいものなんだけどね」
「それは……まあそうだな。でも安心してくれ、冗談でも皇と今後関わったりしないなんて言うつもりはなかった」
「そうなの?」
「あぁ。成り行きとはいえ秘密を知られたわけだし、それこそ力を出し合ってやり合った仲でもあるからな」
「……うん」
その“うん”はちょっと破壊力があったな……。
その後、皇の言い方も功を成したのか絡まれることはなかったが、意外と俺に親しい人には大丈夫かと心配される事態に。
「なあ瀬奈、マジで何ともないのか?」
「何ともないよ。だから大丈夫だって」
放課後、今日は真一と二人でダンジョンに潜っている。
元々約束していたわけではないのが、ブラブラしていたら合流する形になり、そこから二人でダンジョンに行くことになった。
「まあでも皇に限ってそれはないか。あれだけ出来た人格者もそう居ないからな。俺としても最近よく話すのは気になるけど」
「ま、色々あったんだよ」
「詳しくは聞かんさ」
「サンキュー」
持つべきものは友達、それこそ何度もダンジョンを駆け抜けた戦友だ。
「少し奥に行くか?」
「いや、二人だし慎重にやろう」
「分かった。背中は任せろ」
「了解。ははっ、瀬奈の援護は本当に頼りになるぜ」
俺たちは互いに笑い合い、ダンジョンでの狩りを楽しむのだった。
しかし――。
「きゃああああああああっ!!」
「うわあああああああああっ!!」
二人で魔物を倒していた時、奥の方から大きな叫び声が響いた。
俺と真一は互いに頷き合い、細心の注意を払いながら声の出所に向かった。
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