不測の事態もなんのその
悲鳴が聞こえた先に向かうと、そこには大きな巨人が居た。
「オーク!?」
ぶよぶよとしたお腹で全体的に緑色の配色、背丈は人間の俺たちよりも遥かに大きな魔物だ。
その手に持つこん棒も大きく、そんなオークの見つめる先に居るのは二人の男女だったが……大分状況はマズそうだ。
「オークってCランク階層には居ないはずだぞ!?」
真一の言葉に俺も頷く。
オークはBランク階層の森林地帯で生息が確認されており、決してこのCランク階層には出てこないはずだ。
「俺たち、間違えてBランクのとこに来たか?」
「いいやそんなことはないはずだぜ」
とはいえ、雑談はこの辺りにするか。
男子が女子を守るように立っているが、既に片腕が血塗れで満足に武器すら握れていない状態で、あのまま放っておけばその巨大なこん棒が彼らを圧し潰すだろう。
「真一、どうする?」
「助けるしかなくないか? 幸いにこっちにはお前が居る」
「……ったく、大した信頼だことで」
お互いに笑い合い、俺たちは駆け出した。
まず最初に俺は牽制の目的で矢を放つと、それはオークの肩に突き刺さった。
(なるほどな。まだ俺の弓術はこのレベルってところか)
それでも注意を引くことは出来た。
怪我をした二人から俺たちの方へ向いたオークは、その大きなこん棒を振り上げて駆けていた真一に向かう。
「させるかよってな」
【魔弓】発動
魔弓のスキルが発動した瞬間、予め放っていた矢が一斉にオークへと向く。
正にオールレンジによる一斉射撃だが、オークの体を全体的に攻撃しつつ、いくつかはその心臓の部分のみを重点的に攻撃した。
「ナイス援護だ瀬奈!」
「おうよ。買ったばかりのその剣、存分に威力を見せてくれ!」
「任せろおおおおおお!!」
……こういうダンジョンを攻略というか、戦っている時に考えることではないかもしれないけれど、こうやって仲間と協力するのもまた探索者の醍醐味だ。
もちろん全ての矢を放ったわけではなく、如何なる不測の事態にも対応できるように後何本かはスキルを発動した状態で待機させている。
「おらあああああああっ!!」
真一が剣を向けるのは何発も矢を受けた胸の部分で、その真っ直ぐな剣の切っ先はオークの胸元を突き……そして突き抜けた。
オークは苦しそうな声を上げ、心臓を貫かれたことで死期を感じたのだろう。
最後の足掻きと言わんばかりに自慢の握力で真一の頭を潰そうとしたが、もちろんそれも俺は許さない。
「チェックメイトだ」
残っていた矢が全てオークの脳天に突き刺さった。
グサグサと小気味が良いような、或いは気持ち悪いと感じるような音と共にバックりとオークの頭が矢に貫かれてぐしゃぐしゃになった。
「……って、うおおおおっ!?」
「あ、あの馬鹿!」
力を失いオークは真一に向かってその体が倒していく。
俺はすぐに真一に駆け寄り、オークの体の下敷きにならないように避難させるのだった……ただ、思いっきり蹴っ飛ばしたのは許してくれ。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ……お前に蹴っ飛ばされた方がダメージがデカかったわ」
「オークの腹に潰されて死ぬよりマシだろ?」
「まあな……そんな死因は嫌だぜ俺。せめて女の子とエッチをして腹上死が一番理想の死に方だしな」
「それはそれでどうなんだよ」
まあでも、ある意味で幸せな死に方の一つかも分からんなそれは。
オークの体が光の粒子になって消えて行ったのだが、その頃には既に俺と真一が助けるはずだった二人は居なかった。
オークとやり合っている最中に二人が逃げて行くのは確認していたものの、別に良いかと放っておいたのだ。
「あいつら、せめて礼の一つくらい言いやがれよな」
「まあ良いんじゃねえか? 怪我してたし、死が目前に迫っていたなら気持ちも分かるからな」
「……瀬奈の言う通りか。そうだな、助けれて良かったってことにしよう」
それから俺たちは辺りを警戒しながら言葉を交わす。
話題は当然、どうしてこんな場所にオークが居るのかだ。
「生息地が変わることってあんのかな」
「分からん。まあでも、ダンジョンにはまだ秘密が多いからな。全部を解明できているわけじゃないし、こういう不測の事態もあることは覚えてて損はない」
「うん。いやぁしかし、瀬奈が居てくれて助かったぜぇ……」
「背中を任せてくれてありがとな」
「おう!」
パシンと互いに手を叩き合った。
「しっかしオークかぁ……当たり前だけど生で見たのは初めてだぜ」
「ふ~ん?」
「オークってさ……なんかこう、漫画のイメージが強かったんだわ」
「それってエッチな奴?」
真一は力強く頷き、堂々とした様子で語り出した。
「そそ、それはもう目も当てられないエロエロな展開になる奴だ! けど、この現実世界のオークは普通に女子も殺そうとしてたからさ。やっぱりああいうのは漫画の世界だけなんだって実感したよ……下手打ったら殺されるだけだ」
そうだな、それが夢とロマンで溢れるダンジョンの過酷なところだ。
慣れたランク階層で狩りをしていたとしても、何か一つの不測の事態が起きれば簡単に終わってしまうのもまたダンジョンだ。
「けどやっぱりそのスキルヤバいな?」
「俺も思うわ。かなり便利だよこいつ」
俺は適当に一発岩に向かって矢を放つも、それは岩の頑丈さに弾かれた。
今度は魔弓を発動しながら岩に放つと、弾かれることなく岩の中にめり込んだ。
「威力もやっぱり上がってるんだな。良いこと良いこと」
「ははっ、羨ましいねぇ新スキルってのは」
なんて和やかなやり取りをしていたが、二人でそこそこ奥に入ってしまったことを思い出しすぐに出口へと向かった。
組合に赴いてオークのことは報告しつつ、真一と素材を換金分を山分けしてから別れるのだった。
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