天使の翼
無双の太刀を手に俺は皇を正面に見る。
実を言うと、如何に彼女が有名人であるとしてもどんな戦い方をするのかはそこまで知らない。
俺と同じく剣術を用いることと、類い稀なる魔法のセンスを持っているということだけが分かっている情報だ。
(……剣も使えて魔法も使えるか。正に魔法剣士だな)
俺も魔法が使えないわけではないのだが、この刀を手にしている時はどんな状況になろうとも魔法を使おうとは思わない――否、何故か思考が魔法を必要としないのである。
それはつまり、この刀は全てを切り裂く力を持っているからこそ、余分なモノは必要ないということだ。
(まあでも分かりやすくて良いよな。魔法なんざ使わず、ただこの刀で目の前の存在を斬ればいい……それで全てが終わるんだから)
どっちから動くか、そう思っていたが先に動いたのは皇だった。
音もなく駆け出した彼女はすぐに俺の眼前へと迫り、その剣で鋭い突きを俺の胴体に放ってきた。
俺は慌てることなくその一撃を回避すると、更に追撃が彼女から迫りくる。
(見える……それに一つだけ分かった。彼女も剣術スキルを持っているらしいが、たぶんレベルは9だな)
同じ種類のスキルだからなのか、なんとなく直感でソレが分かった。
とはいえ限りなく10に近い9ということで、後少しの成長を見せれば完全なレベルの限界へと到達するだろう。
無数に繰り出される剣技に俺はここだと一歩踏み込み、その剣を弾き返す。
「っ……ウインド!」
弾き返した直後に彼女は風属性の魔法を使い、その生まれた風を身に纏うことで瞬時に後ろに跳躍した。
しかし、俺はそれよりも速いぜ皇!
「ここだ」
「え?」
それは皇の呆気に取られた声だった。
何故なら俺の体はまだ元居た場所に残っており、彼女からすればどうしてそんな俺の声が背後から聞こえたのかと疑問のはず、答えは簡単であまりに速く動いた結果として残像がそこに残っているのだ。
女の子とこんな模擬戦のようなことをしたことがないため、手加減は必要かと一瞬考えたが、それは彼女に失礼かと思い予備動作なしではあったが、かなり強めの一撃を彼女の背に放つ。
「くっ!?」
瞬時に生まれた氷の盾に阻まれたが、俺の刀はまるで豆腐を包丁で切るかのようにスパッと切り裂いた。
いとも容易く皇の体は吹き飛び、魔力の壁にぶつかって大きな煙が上がった。
今のところ彼女は移動と防御の為にしか魔法を使ってないが、確か殲滅に長けた大規模魔法も使えるはず……まあ、サシでの戦いなのでその余裕は流石にないか。
「これで終わりじゃない……よなやっぱり」
煙の中から淡い光が放たれたかと思えば、その煙が晴れた瞬間に皇を剣を突きだす形で突っ込んできた。
そのスピードは速く、この一撃で全て持っていくと言わんばかりだ。
だが俺はそんなものよりも、彼女の背に目が行ったのだ。
「天使の……翼?」
それは純白の翼だった。
まるで伝承に現れる天使の翼のような……それこそ、寮に飾られている絵画で見るような綺麗な翼だった。
「やあああああああああああっ!!」
翼だけでなく、その瞳も銀色に輝かせながら彼女は突っ込んできた。
それは一寸の狂いの無い純粋な突きだが、剣の切っ先を刀で受け止めると凄まじいほどの衝撃が体に伝わる……しかし、何度も言うがこの刀を手にして負けることは絶対に許されない。
「この刀は絶対の証、故に敗北は許されない」
「何を……っ!!」
こうして剣を受け止められることも想定していたのか、彼女は二つの魔法を同時に発動している。
それは水属性と氷属性の魔法で、俺の足の動きを止めるように下半身を覆っていたが、刀を握る手に力を込めると、それは更なる全身へのブーストへと変わる。
「効かねえ!!」
腰まで覆っていた魔法は砕け散り、そのいくつもの破片に彼女の驚いた表情が写り込んでいた。
俺は刀で押し返すように力を込め、そのままの状態で振り抜いた。
完全に体勢を崩した彼女に今度は俺からだと追撃をする。
「冥月螺旋!!」
螺旋を描くような動きと共に、対象物を一閃で切り捨てる奥義……ちなみにこれは俺の憧れであるレギオンナイトの技である。
彼女は迫る一撃を翼で全身を覆うようにして受け止めようとしたが、やはり全てを切り裂く太刀の前にそれは無力だった。
「……あ」
魔力の塊とも言える彼女の翼は切り裂かれ、そのまま壁を失った皇は俺の一撃をその身に受け、先ほどのように吹き飛んだ。
障壁に背中を打ち付けるようにして倒れ込んだが、俺は少しやり過ぎたかと逆に焦っていた。
(そりゃこんなことしないから分からんって!!)
すぐに駆け寄ると、彼女は咳をしながらも立ち上がった。
「まさか、天使化の一撃を止められるなんて思わなかった……負けね私の」
「天使化?」
気になることはあるものの、取り敢えず俺の勝ちで良いらしい。
一旦息を整えようと提案され、俺は予め用意されていたドリンクを皇に手渡されて喉に通す。
「……うめえ。動いた後の炭酸は良いねぇ」
「体には悪いけれどね」
美味しかったら良いんだよと俺は笑った。
「……初めてだわ。私が負けたのは」
「いや、でも皇は全力じゃないだろ」
さっきも思ったが彼女は大規模な殲滅魔法も使えるので、それを使われたら負ける気はないけど分からないだろう。
まあ、発動される前にケリは付くと思うけど。
「殲滅魔法も使えるって聞いてるが?」
「何言ってるのよ。そんなもの、詠唱の時点で斬られておしまいだわ。私、悪者がどうして変身中のヒーローを攻撃しないのかって疑問に思うタイプだから」
「あら現実的」
「実際そうでしょう?」
「まあな」
まあでもそれはヒーローもののお約束というやつだな。
それから少し互いに無言になり、彼女は飲み物を置いてこう言った。
「戦う最中に少しだけ分かったわ。あなたは力に振り回されることはなく、ただ純粋にそれを己のモノとして使っている。そしてその刀の一撃を受けた時強い想いを感じ取った……それが、貴方の力なのね」
「……マジマジと言わないでくれ恥ずかしいから」
「……ふふっ♪」
クスッと笑った彼女はその場に背中から寝転んだ。
俺はつい彼女から視線を外したものの、更に言葉を続ける。
「負け……負けたかぁ。大人ならいざ知らず、同学年の男の子に負けるなんて本当に思わなかったわ。凄く悔しい……悔しいけど、同時に嬉しく思う。あなたみたいな人が居るのねって」
「……そうか? つうかなんでそんな負けたのに嬉しそうなんだよ」
「さあ、なんでかしらね♪」
分かんねえよ……というか一つ言わせてもらっていいか?
「なあ皇」
「なあに?」
「寝転んだ拍子にスカート捲れてパンツ見えてるぞ」
「……っ!?」
サッと起き上がって彼女はスカートに手を当てた。
恥ずかしそうに俺を見ているが、別に俺は何も悪くない……はず!!
「……えっち」
「俺は悪くない!」
でもその後、見てしまったことは悪いと思うのでしっかりと謝っておいた。
黒に花柄の下着、高校生が穿くには中々にレベルが高いと思うので……たぶん忘れることは出来なさそうだけど。
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