御所望は力試し
力を隠していないか、それはあまりにもストレートな言葉だった。
皇の端正な顔は相変わらずニコニコと微笑んでおり、固まってしまった俺に対し確信を抱くように頷いた。
「ま、あの時の身のこなしである程度は確信していたわ。あなたは簡単に避けたけれど、一応スキルを発動しての突きだったから」
「……なるほど、それでか」
「えぇ」
「一つ良いか?」
「何かしら」
俺は一旦言葉を止め、真剣な表情を心掛けて言葉を続けた。
「もしも、もしも皇の見当違いでその剣に俺が貫かれたらどうするつもりだった?」
「っ……それは」
「即死でなければ治療すれば治る、それこそ魔法があるからな。でも痛いだろ?」
「うっ……」
「あれが悪いことだって分かってるよな? いや分かってるか、だって謝ってたもんな?」
「ごめんなさい!!」
うん、ちょっとこの子を揶揄うのは楽しいかもしれん。
頭を下げた皇に肩を震わせて笑うと、流石に彼女も揶揄われたことに気付いたらしくぷくっと頬を膨らませた。
「結構酷いわねあなた」
「お?」
「……ごめんなさい」
いやぁ面白い子だな……っと、揶揄うのはこの辺りにしようか。
どんなに誤魔化したところで答えを知らない限り皇は諦めないだろうし、それに彼女の瞳は明らかに確信を持っているからだ。
「力を隠しているか……嘘を吐いても無駄そうだし素直に答えるけどその通りだ」
「やっぱりね。答えてくれてありがとう」
そこでちょうど、頼んでいた紅茶が届けられた。
実を言うとここの喫茶店には真一たちと一緒に来ただけで特に詳しくはなかったのだが、この紅茶一つでも本当に美味しい。
「美味いな」
「そうね。ケーキも絶品なのよ? ここには良く来てご馳走になってるわ」
「へぇ。普通科の生徒とか?」
「それもあるけど探索科の友達とも来るわね」
「なるほど」
流石、Sランク且つ皇グループのご令嬢ともなると友達が多いんだなぁ。
(って、この考え方はダメだな)
そこにどんな思惑があるのかは置いておくとして、多くの友達を作ったのは彼女自身の人柄に寄るものが大きいのだろう。
彼女の地位や名誉によって人が集まるのではなく、彼女だからこそ集まる……こうして突然の交流ではあったが、その人柄が悪くないと俺でさえ思うくらいだし。
「それで本題に戻るけど。力を隠している理由でも聞きたいのか?」
「いいえ聞かないわ。それなら最初から聞くなって話なのだけれど、気になってしまったからそれだけ確かめたかったの」
「……そうか」
てっきり理由を聞いてくるものだと思っていたので俺は肩透かしを食らった気分だった。
「基本的に探索者は己の力を高めるためにダンジョンに潜り、そうして得た地位や名誉を誇る者が大半だわ。もちろん他者をそれで見下す者も多いけれど、そんな人たちとは別に力を隠していることには理由があると思うから」
「……………」
「あなたの本当の力とランクは知らないけれど、その実力はとても高いモノだと私の勘は言っている。確か時岡君はCランクだったわよね?」
「あぁ」
「強すぎず弱すぎず、世の中でのCランクの評価はそうだから絶妙なラインに位置しているわね。強すぎる力を持つと自分だけでなく、その家族すらも気に留められるからもしかして?」
そこまで分かるのかと俺は驚きつつも頷いた。
基本的にSランク……いや、Aランクに辿り着くくらいの力を持っているのは家族からの遺伝が強いとされており、そうでない者が不思議な目で見られることは知っている。
だからこそ、そういった背景がない俺が高ランクを取った場合のデメリットを考えた結果、現状が良いんじゃないかとなったわけだ。
ちなみに深層の素材の換金でバレるんじゃないかって思われるだろうが、システムの都合上割とバレることはない。
まあ特にその時は持ち帰ることがないのも大きいが。
「ちなみに皇の両親は?」
「父が元Sランク、母は元Aランクよ」
「すげえな。うちは亡くなった父さんと存命の母さん、そして妹は力を持ってない」
「……そう。思った通りだったわね」
ま、ある程度気になったとはいえ普通の人なら気にも留めないだろう。
逆にどうしてお前みたいな奴がって感じで因縁を付けてくる人間の方が多いくらいだし、皇の接し方はそうだな……少しの問題はあれど、他者に寄り添う優しさを感じられる。
(強い者だからこそ他者を思い遣れる優しさがある……か)
それは俺も目指したい領域だが、果たして俺はそう在れるだろうか。
人助けはそれなりにしているもののただの自己満足だと言われたらそれまでだし、正直自分でも時々そう思うことがあるので何とも言えないんだけどな。
「つっても俺の本来がどれくらいのランクなのかは査定されてないから分からん。登録されているスキルは弓に関するものだけだし、もう少し成長したらBランクに昇格かなって感じだから」
「私はあなたの戦い方を知らないけれど、その口ぶりだと弓がメインの武器というわけではないのね? 所謂サブ武器での評価がそれなのも十分に凄いと思うけど」
「……ちょい照れるじゃねえか」
「あら、可愛い所があるじゃない」
そりゃあ素直に褒められたら嬉しいだろうよ。
その後、俺たちは簡単に話をしてから喫茶店を出たのだが……何故か、俺は彼女に連れられてとある建物に訪れていた。
「……まさかこんなところに来るとはな」
俺が訪れたのは皇グループが所有する競技場だった。
彼女の鶴の一声で外から誰も入れないように封鎖され、正真正銘今この場に居るのは俺と彼女だけだ。
「楽しい話をしてくれたお礼に一つだけ、我儘を聞いてくれるって言ったから」
「……………」
美少女と話をした事実に少し気を良くしてしまい、何か一つだけ我儘を聞いてあげようじゃないかと口にした俺が馬鹿だった。
そんな俺に提案されたのが模擬戦をしてほしいという誘いで、それが我儘になるということで自分で口にした言葉に嘘を吐くわけにも行かなかった。
「どうか全力でやり合ってほしいの」
そう言って彼女は剣を構えた。
その辺りに売られている剣とは違う、それこそ希代の刀匠が鍛え上げたような芸術品のような剣だった。
実を言うと、少し俺は高揚していた。
目の前に居る数少ない学生のSランク、そんな強敵を相手できることに。
【無双の一刀】発動
手に持つは無双の太刀、それを見た皇は表情を変えた。
「それがあなたの……」
「あぁ。無双の太刀、刀自体に名前はないけどこれが俺の本来の武器だ」
さて、突然のことだったが始めるとするか。
俺と皇は互いに武器を構え、戦いの火蓋が切って落とされた。
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