第27話 集合

「な、なにをそんなニヤけてんだよ?」

「元々はわたしが引っ張り回してる感じだったのに、わたしが花染さんに興味示したら、悠飛がびみょーに暗い顔するのがおかしくて」

「別に、そういうわけじゃ……」

「いやいや、わたしは嬉しいんだよ? わたしたちの関係が着々と進展してるって思えるからね?」

「……はいはい」


 朱那の目が、もう付き合ってないとは言わせない、と訴えている。……俺も、同意するしかなさそうだ。

 水澄先生がどこかに連絡し、朱那は八草に電話を掛ける。八草の方はすぐに連絡が付き、まもなく合流した。

 日向を見た朱那は、開口一番。


「日向! あんた、わたしの彼氏に手を出そうとしたでしょ! 悠飛は絶対に渡さないからね!」


 そういえば、今朝朱那に会う前に、俺は日向に会っているのだった。


「さぁ、それは華月先輩が決めることじゃなくて、色葉先輩が決めることじゃないですかー?」

「……む? 日向、なんかいつもと少し雰囲気違うのね」

「華月先輩はいつもお変わりないですね?」


 日向は不敵な笑みを浮かべている。俺は既にこの雰囲気を知っているが、ゆるふわな雰囲気しか知らない朱那は混乱している。


「あたしも少し驚いたけど、日向はむしろこれが普通らしいね。学校では猫被り姫になっているそうよ。ま、だからってなんということもないけれど」


 八草はあっさり日向の変貌を受け入れているらしい。そういう細かいことを気にする性格ではなさそうだし、気にしていた方がむしろ違和感だな。


「ふぅん……。ま、わたしも別にいいけど! でも、性格変わったって、悠飛はわたしのだから!」

「だーかーらー、それは色葉先輩が決めることですよね? 結婚しているわけでもあるまいし、まだ唐突に別れを切り出されたっておかしくないんですよ?」

「わたしと悠飛はもう結婚してるようなもんよ」

「ふぅん? どうなんですか? 色葉先輩! わたしとこの勘違い女、どっちを選ぶんですか!?」

「待て。何か話が飛んでる。どっちを選ぶ以前に、日向は別に俺と付き合うつもりないだろ」

「え? わたし、色葉先輩のことが好きだって、今朝告白しましたよね?」

「え?」

「……悠飛、これはどういうことかな? それは聞いてないよ?」


 朱那が俺と繋いでいる手に目一杯力を込めている。痛いぞ。


「……ど、どういうことも何も……本当に、何も聞いてないし……」

「本当? 告白されて、実はちょっと心が揺れたから、わたしに話せなかったとかじゃない?」

「全然違うって……」

「……色葉先輩、本当は華月先輩のことをそんなに好きじゃないのに、無理矢理恋人扱いされて困るって打ち明けてくれたじゃないですか。わたし! 色葉先輩のためなら、この凶暴なメンヘラ女子とも戦います!」

「日向さん、そろそろ朱那をからかうのはやめてくれ。俺はそんなこと打ち明けていないし、日向さんと朱那が戦うことも望んでない」

「じゃあ、二人は本当に愛し合う恋人同士だって言うんですか!?」


 何を叫んでいるのだ、この子は。

 振る舞いだけを見ると、本気で俺を想って暴走しているようにも見える。しかし、日向は猫被りも演技も上手いようなので、これもやっぱり演技だろう。

 何が目的なのか……。単に面白がっている、に一票投じたいところ。

 からかわれているだけなのだから、真剣に取り合う必要も……。

 と、俺は思うのだけれど。

 朱那は、必死に、すがるような目で俺を見つめている。

 何故に? 自信家の朱那が、実は俺からあまりよく思われていないかもしれないなどと、不安になっているとでも言うのだろうか?


「……俺、朱那のこと、好きだよ」


 自分で口にして、違和感はない。まだ日数的に短い付き合いだけれど、朱那のことは、やっぱり好きだ。

 朱那もにっこりと微笑んで、日向に勝ち誇る。


「ほら見なさい! 悠飛はもう、身も心も魂も、全部わたしのもの!」

「ふふん? まぁいいでしょう。しかし、油断しないことですね。わたしにはまだ、四つの進化を残しています。進化するわたしに、色葉先輩はすぐにメロメロになることでしょう」

「ふん。かかってきなさい! 全て返り討ちにしてやるから!」


 日向のノリに合わせてやる朱那、すごくいい先輩だな。


「モテモテね、色葉。もう諦めて、あたしたち三人、全員と付き合ってしまったらどう?」


 八草が何か言っている。


「あのな……浮気はダメだろ。しかも、八草さんも人数に入ってるし」

「あたしだって色葉を狙ってるのよ? それに、アーティスト界隈じゃ浮気なんて普通。ピカソを見習いなさい」

「ピカソって浮気症なのか?」

「ピカソと言えば愛人がいることで有名よ。それくらい知っときなさい」

「……だとしても、もう時代が違うだろ」

「そんなこと言ってたら、常軌を逸するような作品は描けないわ」

「作品のために浮気するのはいかがなものかと……」

「つまらない返事。あたしはむしろ、愛人になってみたいくらいなのに」

「八草さんまで、恋愛観が前衛的すぎるんだよ……」


 日向は片想いが好きで、八草は愛人志望? なんだこの美術部。独占欲強めの朱那が一番まともじゃないか。……水澄先生は、風変わりな恋愛観は持ってない、よな?


「そろそろいいかい? 花染美砂と連絡が付いた。いつものギャラリーにいるから、来たければ来い、だと」


 水澄先生の声掛けで、美術部員四人も落ち着く。と思いきや。


「水澄先生、愛人になってみたくないですか?」


 八草が唐突に尋ねて。


「私は逆ハーレムの方が好みだ。ついでに言えば、彼氏と彼女、両方欲しい」


 ……水澄先生も、やっぱりちょっと? 風変わりだったようだ。

 この美術部、大丈夫か?

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