第25話 アートフェア
バスも利用しつつ、移動すること二十分ほど。
俺たちは、アートフェアが開かれている国際会議場に到着。
内部はとても広いのだが、パンフレットによると、その中で千点以上のアート作品が展示、販売されているのだとか。その多くは、いわゆる現代アートと呼ばれているもの。
「おー、やっぱり現代アートの展示って、不思議空間になるねー」
「うん。確かに」
手を繋いだまま各展示を見て回るのだが、二人ともおのぼりさん状態だ。
「俺、実を言うと現代アートに苦手意識あるんだ」
「それはわたしも。ぱっと見わけわかんないもんね」
「うん。でも、改めて水澄先生とか八草さんの話聞いて、興味は出てきた」
「む? 彼女とのデート中に他の女の子の名前を出すなんて、覚悟はできてるのかな?」
「な、何の覚悟だよ」
「もちろん、記憶がなくなるまで熱烈な奉仕をされる覚悟」
「当然のことみたいに言うな。そんな発想をするのは朱那くらいのもんだ」
「それ、朱那はどんな現代アートよりも個性的で素敵だね、っていう褒め言葉だよね?」
「そこまで考えてない。……個性的なのは確かだけど」
平常運行でおしゃべりをしつつ、俺たちは各ブースを見て回る。
現代アートは本当に多種多様で、ぱっと見綺麗で惹かれるものもあれば、何がアートなのかわからない作品も多々ある。
「わたしも興味は沸いてきたけど、やっぱり見れば見るほどわけわかんないね! こういう、ぬぼー、とした人みたいな何かの絵とか、何を思って描くんだろう?」
朱那が嬉しそうに言う。俺も苦笑するばかり。
「本当に、わけがわからないものばっかりだ。作品を見ただけじゃ、何をどう思えばいいのかもわからない」
「現代アートは、作品を見ただけじゃ理解できないものが多い……。水澄先生の言う通りね」
美術部の活動中、水澄先生から少しずつアートについて話を聞いている。
その中で、『現代アートは、作品単品だけ見ても意味不明なのが普通』と水澄先生が言っていた。
現代アートは美しさや技術力を追求しているのではなく、アイディアをより洗練させてアート作品として形にしていることが多い、らしい。
何かしらの思想、風刺、感情、意外性、独自性、遊び心……。色々なものをアーティストが自身の中でこねくり回し、アーティストなりの表現手段でアート作品として成立させる。アーティストが独自の言語で詩を書いているようなものだから、ぱっと見てそれを理解できるわけもない。作品制作に至る背景や考えを知らなければ、作品を評価することはまずできない。
また、アーティストは世の常識から外れた思考回路を持つ人も多いので、常識の中で生きてきた人ほど、より一層意味がわからない。説明されても理解できないし、こんなもの理解したくないという反発を抱かせることさえある。
ただ、アートの世界に慣れてくると、理解することはさておき、感覚的にアート作品を評価することもできるようになるのだとか。
これも、水澄先生曰く。
『結局、アート作品なんて自分がその作品を好きかどうかで価値を判断すればいい。どんな巨匠の作品も、自分がゴミだと思えばゴミだ。無名のアーティストの作品でも、自分が好きになったら大きな価値がある』
水澄先生の真意は、俺にはまだはっきりとはわからない。その領域に到達するには、もっと経験が必要なのだろう。
二人で、よくわからない人物画らしきものを眺めていると、朱那が言う。
「作品だけ見てもわからないのに、作品とタイトルと値段くらいしか表に出てないんじゃ困るなぁ。素人にはもっと解説ほしー」
「だな。何か刺激されるものはあるけど、奥深くまで伝わるものはない」
「悠飛と二人きりは譲れないとしても、水澄先生の解説聞きながら見て回りたい気分」
「うん」
美術部員二人して、「わけわからん」と言い合いながらも、引き続き展示を見て回る。
「……わけわからんけど、人間のアイディアって、果てしなく奇想天外で、面白いんだな」
俺が呟くと、朱那も頷く。
「『現代アートは人類のアイディアの最前線』だもんね? 良さはいまいち掴めないけど、なんか面白い」
知恵の最先端を科学が担っているとすれば、アイディアの最先端を担うのは現代アート。
これも水澄先生曰く、なのだが、俺としては納得している。
もちろん、別の分野で活躍する人からすれば、アイディアの最先端は別のものが担っていると主張するのかもしれないけれど。
「アート作品に、『美しい』『技術がある』の他に、『面白い』の基準ができたのは、最近の収穫かな」
「ふふ。こういうのに刺激を受けて、悠飛の絵がどう変化していくのかを見ていくのも楽しみだなぁ。
けど、わたし、今でもやっぱり自分のことは単純に綺麗に可愛く描いてほしいっていう気持ちも強いんだよね」
「俺もそうしたいところ。俺の好みもそうだし、朱那の一番の持ち味は、万人受けの美しさだとも思う」
「それに、面白さを追求したって、性欲は発散できないもんね? わかってるよ、男子高校生の習性くらい」
「……そういう面が、ないとは言わないさ」
「正直者だこと。……お? あれ、なんかいいかも」
朱那がとあるブースを指さす。
そこには女の子を題材にした絵が並んでいて、直感的に惹かれるものを感じた。
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