#2 チキンソテー
僕は食堂へ続く、長蛇の列にいた。
僕がここに並ぶ目的、それはもちろん。
――食堂でお昼を食べることだ。
大学に来る第一の目的は、この大学食堂で食事をすることだ。講義はその次の目的。
今日は少し寝てしまった講義もあるが、内容自体は違和感なく理解できたので良しとした。
来たる食堂の入り口――。
僕はその横にある、サイネージボードに目を光らせる。
――ほうほう。今日の定食はチキンソテーなんだ。よし、それにしよう。
僕は先に進み、食券を購入する。
定食、そう書かれたところに列が並んでいた。
――相変わらず、ここの食堂は美味しいらしい。特に、定食に関して。
僕はふっ、と鼻を鳴らし、列に静かに並ぶ。
次第に待っていると、自分の出番が来る。
僕は食券を乗せたトレイを台に置く。
「定食Aね。――定食Aが入ります!」
今日も、食堂のおばさんは元気だ。
そう思っていると、隣に見覚えのある人がいた。
――横溝陽子。
彼女は僕の親友であり、勝手にライバル視している人だ。
そんな彼女が、今日は僕と同じタイミングだなんて。
・・・・・・なんて日だ!
内心、謎に悔しがっていると、陽子が僕に気づく。
「あ、秀一くん」
「お、おう。陽子じゃん」
「秀一君も、定食なの?」
「おう、そうだ。そんな君も、定食なのかい?」
「ええ、そうよ。なかなか美味しそうだもん」
僕は思わず陽子の笑みを見て、薄く頬をほころんでしまう。だが、すぐに自制心が働いて口角を戻す。
そんなことをしていると、僕のトレイには定食が乗り始めていた。
バターの香る良い匂い。
チキンの照り具合。
――うん。上出来だ。
僕はトレイに箸を乗せ、陽子を待つ。彼女が出てきた時、僕は彼女と歩き、空いていたテーブル席に座る。
「美味しそう~」
「ああ、そうだな」
「食べましょ」
僕は頷く。
手を合わせ、いただきます、と言う。
まずは味噌汁を一口。
――美味い。
ダシが良いのか、味噌が良いのか、正確には言えないが、そんな気がした。
よし、チキンを食べよう。
箸でチキンを持つ。
左手でご飯の入った茶碗を持ち、チキンを頬張る。
――これも、美味い。
バターが良い感じに効いて、チキンの旨みを最大限に出している。
これは美味い。
だが、油が気になるな。
目線が隣の野菜に移る。
――ふっ。気の利くことだ。
僕は野菜を食べ、食感を楽しむ。
シャキ、シャキ。
瑞々しい。
僕は美味しさを噛み締めながら、定食を平らげる。
――ごちそうさまでした。
僕は目線を陽子に移す。
――なっ!
あ、あれは・・・・・・。
陽子はチキンをご飯に乗せ、丼にしていた。
そして、それをかき込む。
「・・・・・・美味しい!」
陽子のその笑顔を見ると、僕は思わず目を離したくなる。
眩しいからだ。
その後、陽子も定食を食べ終えた。
僕たちは食器を片付け、食堂を後にした。
「じゃあ、また明日ね」
彼女は去って行く。
――今日も、また負けた。
僕はその背中を見て、そう思った。
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