おいしい学食

青冬夏

#1 カレーライス

 食堂に繋がる長い列。

 僕はその中にいた。

 僕の名は、中井秀一。この大学に入って、数ヶ月経過した大学一年生だ。

 僕が通う大学は食堂が美味しいと評判を呼び、近くの会社員も集まる。

 安くて、美味しい。

 今の時代、それが消費者のニーズなのかな。

 長蛇の列が動く度、僕は歩み始める。

 そして、とうとう。

 食堂の入り口に降り立つ。

 まずは、メニューだ。

 僕が大学に来る一番の目的。それこそ、食堂のご飯を食べること。

 ――どれどれ。ほうほう。今日は大人気のカレーライス、か。

 僕はサイネージボードに目を光らせる。

 券売機の前に立つ。

 僕はお金を入れて、カレーライス、と書かれたところを押す。

 受取口から食券が出てきたので、それを手に取る。

 トレイを取って、そこに食券を置く。

 そしてまた、列に並ぶ。

 「あ、カツ丼ね。――カツ丼入ります!」

 食堂のおばさんが奥の人達に聞こえるよう、叫ぶ。

 「定食ね。――定食入ります!」

 「うどん。――うどん入ります!」

 おばさんの叫び声が食堂を賑わす。

 思わず笑みを浮かびそうになるのを堪えつつ、僕はおばさんの目の前に立つ。

 「えーっと、君はカレーライスね。――カレーライス入ります!」

 僕のメニューが奥へ飛ぶ。

 列が進み、頼んだカレーライスが出てくるのを横目で見ながら、僕は先へ進む。

 そして、目当てのカレーライスが目の前に。

 ――美味しそう。

 唾液が口腔内に出てくるのを舌で感じつつ、唾液を飲み込んで喉を鳴らす。

 「はい、お待ち、カレーライスね」

 「ありがとうございます」

 僕は感謝の言葉を出す。横にあったスプーンをトレイに乗せ、二人席を探す。

 ――なぜ、二人席か、って?

 ――ふっ。それは後のお楽しみさ。

 僕は胸を高鳴らせ、窓際のテーブル席を見つけ、座る。

 僕はリュックを椅子に下ろし、視線をカレーライスに向ける。

 カレーライスから蒸気が出される。

 僕はスプーンを持って、手を合わせる。

 ――頂きます。

 僕は歴史高いカレーライスを一口、頬張る。

 ――さすがだ。この料理を思いついた日本人に、敬意を示したい。

 甘すぎず、辛すぎず。

 辛いものが苦手な人でも、食べやすいよう、また辛いものが食べたい人でも食べやすいよう、うまく設計されている。

 これこそ、大学食堂。

 それを表せるのが、このカレーライス。

 僕はしばしカレーライスを嗜んでいると、向かい側に女子二人組が座ろうとしてきた。

 ――いかん。守らないと。

 「あ、ごめんなさい。ここ座る人がいるので」

 「そうですか。ごめんなさい」

 「いえいえ」

 僕は女子二人組がどこか別の場所に座るのを確認したのち、またカレーライスを嗜む。

 すると、横から声を掛けてくる人がいた。

 その声の主を見ると、そこには僕の親友であり、(勝手に僕がそう視ている)最大のライバル。

 横溝陽子がいた。

 「秀一くん。君カレーライスを頼んだんだ」

 「そうそう。君こそ、何を頼んだんだい?」

 「同じカレーライスよ」

 ――また被った・・・・・・!

 内心悔しがっていると、陽子が何かしようとしている。

 僕はその様子を観察していると、彼女は鞄からある物を取り出した。

 ――まさか!そ、それは・・・・・・!

 チョコレートじゃないか!

 僕は動揺を隠しながら、彼女の動向を見ていく。

 彼女はチョコレートを手で割り、カレーの中に入れる。スプーンでかき混ぜ、それを口の中に入れる。

 「うぅ~ん、うまい」

 ――そんなの、美味しいに決まっているじゃないか!

 彼女の頬がほころんでいる様子を見て、僕は思わず嫉妬する。

 ――ちくしょう。彼女はどうしてあんなに美味しそうにしているんだ・・・・・・!

 思わず拳を握りしめていた。

 「・・・・・・ごちそうさまでした。――あれ、どうしたの?拳なんか握りしめて」

 陽子が不思議そうに僕の手を見つめた。僕は必死に誤魔化し、カレーライスを嗜む。

 次第にカレーライスを食べ終える。

 僕たちは食器を片付け、食堂の外へ出る。

 「じゃあ、私次の講義があるから」

 そう言うと、彼女はどこか去って行く。

 僕はその姿を見て、こう思う。

 ――いつか、彼女に打ち勝ってみせるからな。

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