01-004 破壊


   ◇ ◇ ◇



 古びた雑居ビルの建ち並ぶ路地裏の片隅。

 シンと冷えた早朝の空気の中、湿気を帯びたアスファルトに横たわる、一体のアンドロイド。

 細く差し込む朝日に照らされるその橙色の体を見つめ、

「アーちゃん……」

 明らかにオーバーサイズな白衣を纏った小柄な少女――ナオは、どこか悲しげに唸った。


 横たわるアンドロイドの体には、いくつかの凹みと焼け焦げたような痕がある。

 体のそこかしこではオレンジ色のランプがゆっくりと明滅し、故障を訴えている。

 そして——頭がない。

 その頸部には、恐ろしく鋭利なギロチンでも落としたかのような、鮮やかな切断面が晒されており、その先にあったはずの頭部はどこにも見当たらない。


 頭の無い、壊れたアンドロイド。

 その横にしゃがみ込み、体を悼むように優しく撫でながら、ナオは静かに目を閉じた。


 アンドロイドに


 接続は問題なし。だが、ステータスチェックのコマンドを走らせてみると、全体としては、修理不可能な故障を表す赤い表示が返ってきた。

 頭部にある、動作を司る電脳が切り離されて消失しているのだから、これはまあ当然か。

 一方でボディの機能は死んでいない。電脳がないので自律動作はできないが、外部からのリモートコントロールで動かすことならできそうだ。


 そして記憶メモリは――こちらはレッド。つまり、修復不能な完全な故障で、記憶データの読み出し不可。

 壊れる数分前までの記憶はネットワーク上にバックアップがあるが、故障前後の記憶は完全に消失している。

 記憶を司る電脳がなくなっているのだから、これもまあ当然のこと――


 アンドロイドには、電脳の故障に備えて体の側に複数のバックアップ用の短期記憶装置がある。

 何かしらの事情で電脳が壊されるような事があっても、電脳が止まる前後の出来事は、必ずバックアップ側の記憶装置にデータが残るようになっている。


 そのバックアップ領域も含めて全ての記憶が失われているとなると、この故障の原因は事故ではない。

 バックアップ記憶領域は、体のそこかしこに分散して配置してあり、事故で全てのバックアップ記憶領域が同時に壊れる確率は天文学的に低い。アンドロイドの構造に詳しい何者かが意図的に破壊でもしない限り、バックアップも含めて記憶データが全て消失するなんていう事は、絶対に起こり得ない。


 つまり、この故障は人為的な破壊によるものでほぼ確定。

 ボディに残されていた焦げ痕や凹みが、すべてピンポイントに記憶装置のある場所の付近だけに残っている事も、状況証拠としてそれを裏付けている。



 そこまで確認したところでナオは目を開け、はぁ、と短いため息を吐いた。

「どうだ?」

 そんなナオの様子を横で伺っていたトレンチコート姿の初老の男――ギンジが、咥え煙草でタブレット端末をいじりながら尋ねた。


 ナオは黙って首を横に振り、肩にかかるさらさらとした黒髪を揺らした。

「やっぱダメか」

「ん。記憶ログ抹消済み」

「ってことは」

「ん。例の破壊魔」

 言いながら、ナオは白衣についた土を払いながら立ち上がった。


 立位になっても、その頭の位置はさして高身長というわけでもないギンジの胸にすら届いていない。体のパーツも全体的に小さくコンパクトで、ぱっと見は小学生くらいにしか見えない。

 しかしもちろん彼女は小学生などではないし、この路地裏にいるのも遊びではない。捜査という仕事のためだ。

「これで8件目、か」

 ギンジがやれやれと言わんばかりに呟くと、ナオは「ん」と短く肯定を返した。


 このところ、ここ副都心西エリア近辺では、アンドロイドが壊される事件が立て続けに起きている。

 手口は全て同じ。頭部の消失による機能停止と、ボディ側にあるバックアップ用記憶装置の破壊。

 それがここ3ヶ月ほどの間に8件。

 犯人は未だに特定できていない。

 壊されるアンドロイドに特に共通点などはなく、動機も不明。

 気まぐれに壊して回っているだけの愉快犯の線が濃厚だが、それにしては手が込みすぎているのが気になるところだ。


 アンドロイドの体は人間よりもずっと頑丈で、その首を切断するなどという事は、何か特別な機器でも使わない限り普通の人間にはできない。ボディ側のバックアップ用記憶領域にしても、そもそもそれがある事も、どこにあるのかもほとんどの人が知らないはずだ。

 それをこうも鮮やかに、的確に破壊してのけるとすれば――

「毎度の確認で悪いんだが」

「?」

「今回もロボットだのアンドロイドだのが犯人って可能性はない、って事でいいんだよな?」

「ん。痕跡ログなし」


 世間で稼働しているロボットやアンドロイド達は皆、AIの作るネットワークに必ず接続されている。

 彼らの行動は全て、事細かに記録されているし、外からの監視の目だってある。もしどこかのロボットやアンドロイドの類が他のアンドロイドを破壊したのなら、必ずその痕跡ログは残るし、それを行った機体の特定は容易だ。


「事故の線も……ねぇよなぁ……」

「事故ならもっとそれらしい現場になる」

「アンドロイドの自殺、とか……」

「人の命令ならあり得るけど命令の痕跡ログがない。それに自己破壊ならこんな壊れ方しない」

「命令なしに勝手に自殺、みたいな事は絶対にないんだっけか?」

「ない。壊れた子、みんなオーナーいる」

「オーナーの財産を守るのが重要な役目だから、オーナーの財産である自分を破壊する事はないし全力で身を守る、っていうアレか」

「そ」

「電脳をハッキングするだのいう話は……」

「そんなの古臭いSFの世界だけの話」

「だよなぁ……」


 シンギュラリティと言う言葉が陳腐に聞こえるほどにまでAIが進化したこの時代、AIに関わるソフトウェア、ハードウェアは全てAI自身によって作られている。

 AIがAIを作り、AIがそれを更新し、その更新されたAIがさらに高度なAIを設計する。

 そうやって恐ろしい速度でアップデートされてきたAIたちは、そのソフトもハードもあまりに高度すぎて、完全に人の理解を超えたものになってしまっている。

 ゆえに人の身で電脳をハッキングするなどという事は、夢のまた夢。物語の中にしかあり得ない絵空事でしかない。


 それができる人間がいるとしたら――

「嬢ちゃんでも無理か?」

 特別な頭脳を持つこの小さく華奢な少女なら、もしかするのだろうか……? と好奇心で尋ねるギンジに、

「あんな1日でまるで別モノに変わったりするものの解析は無理」

 ナオは少しだけげんなりしたような表情で答えた。

「その言い方からすると、試した事はあるのか?」

「なくはない」

「さすが」

 ギンジは感心しつつも半ば呆れる。


 普通の人間は、AIにちょっかいをかけようなどと考える事すらしない。

 それに挑もうとした事があるというだけでも普通じゃないし、「1日でまるで別モノに変わる」というところまで理解しているだけでも並の事ではない。


 つまるところそれが、この薄暗い路地裏という場所におおよそ不似合いな彼女がここにいる理由だった。


 ナオは常人とは異なる特別な頭脳を持っている。

 学術方面では未解決だった難問を解いたのをはじめ多数の実績を残しているし、最近は警察方面でもいくつかの難事件を解決に導いている。特にAIやアンドロイドに関わる事案で、彼女以上の成果を出せる人間はそうそういないだろう。


 今回の事件は、一見すれば単にアンドロイドが壊されただけの、どこにでもありそうな事件でしかない。

 だが、アンドロイド破壊のやり口が、非常に重大な危険性を孕んでいた。

 犯行の痕跡を残すことなく、アンドロイドの首を切り落とす。

 それができる犯人は、恐らくは同じ方法で、痕跡を残さずに人間を殺害できる。


 いかに高度な医療技術があるとはいえ、首を切り落とされた人間を死の運命から100%確実に救う方法はない。犯人がターゲットをアンドロイドから人間に変えたなら、近年稀に見る恐ろしい連続殺人事件が発生しかねない。


 警察の超AIによる分析では、今の犯人が実際にそれを行う確率は限りなくゼロに近いという事だが、実行できる手段がある以上、将来にわたってその確率がゼロであり続ける保証はどこにもない。


 最悪、犯人の特定ができないとしても、どのような手段で痕跡の一つも残さずに首を落としているかだけは早急に把握し、対策を立てておく必要がある。

 そのために、ナオの特別な頭脳が必要とされたのだ。


「アンドロイドだのロボットだの仕業じゃなく、事故でも自殺でもねぇって事で……ま、毎度の結論だな。人間様の仕業って事になるわけだが」

「そだね」

「実際できるもんか? かなり短時間で首落としてるよな?」

「知識と道具あれば」

「アンドロイドの首を落とせる道具ねぇ……しかもあんなにスッパリと綺麗に……」

「難しくない」

「嬢ちゃんの『難しくない』は時々俺ら凡人にゃ『アホみたいに難しい』だったりする事あるんだが今回のはどっちだ?」

「普通の人には少し難しい。工学系の知識が要る」

「そうか。よかったぜ」

「よかった?」

「どんな道具かまるで見当つかなかったからな。俺の頭が絶望的に悪いのかとちょいと心配した」

「……」

「そういう冷たい目で見ねぇでくれるか。変な趣味に目覚めそうだ」

「悪趣味」

「話を戻すが」

「……」

「まあ、これも何度も話してるから再確認みたいなもんだが」

「ん」

「犯人は人間で、アンドロイドに詳しく、その首を落とす道具を用意できる奴、でいいよな」

「ん」

「あとは……どう考えたってプライベート持ちの仕業だよなぁ……」

「そだね」


 誰がやったのか分からないようにアンドロイドを破壊する。

 そんな芸当ができるのは、結局のところごくごく限られた一部の人間――「プライベート持ち」しかあり得ない。


 この時代、人は「プライベート」を持たない。

 世のほとんどの人が、自らの位置情報や行動、見ているもの、交わした会話と感情、体の状態など、自身のありとあらゆるプライベート情報をAIに開示している。


 それは市民の義務であり、基本的に拒否はできない――と言うと、何かのディストピア的な超監視社会を想像してしまうかもしれないが、そうではない。

 世のほとんどの人は、自ら進んで、喜んでプライベート情報をAIに渡している。

 なぜなら、AIにプライベートを差し出せば、その対価として自由で安全で豊かな暮らしを、一切働くことなく無償タダで享受できるからだ。

 だから世間の一般市民の行動はAIには全て筒抜けであり、今回のように犯行の痕跡を残さずにアンドロイドを破壊するなどということは、基本的に誰にもできない。


 ただしそれには例外がある。

 一定の条件を満たすと、AIとの情報共有を拒否できるようになる。

 その拒否権を持つ人々の事を俗に「プライベート持ち」と呼ぶ。


「しかし、プライベート持ちともあろう連中がわざわざこんな事するかね」

「普通しない」

「だよなぁ……」

 プライベート持ちと呼ばれる人々が犯罪行為をする事は、ほぼあり得ない。

 なぜなら、プライベート持ちになるのに必要な条件というのが「多額の納税」だからだ。


 働かなくても余裕で生きていけるこの世界で、多額の税金を納める必要があるほどに稼いでいる人間となると、それはごくごく限られた企業のトップや芸術家、作家、アスリート、インフルエンサーなど「社会的に地位が高い」「社会的に影響力を持つ」人間に限られる。

そんな地位も名誉も豊かさも十二分に持つ彼らが、わざわざ前科者になるリスクを冒して犯罪行為を行う意味はない。


「まぁ、稼いでる連中だし、おかしな趣味のがいてもおかしくはねぇが」

「それ偏見」

「そうか?」

「おかしなのは階層問わず満遍なくいる」

「なるほどそりゃそうか」

「確率で言えばプライベート持ちで変人は少ない」

「へぇ……」

「何?」

 どこか揶揄するような視線を送ってくるギンジを、ナオは鋭く睨み返す。

「いや何でも。しっかし高額納税者がこんな事して何の意味があるんだかな……」

「さ。こんなかわいい子たちを壊すような奴の考える事なんて知りたくもないけど」

「嬢ちゃんがそれじゃ困るんだが……」

「? もちろん犯人にはきちんと報いを受けてもらうけど」

「ならいいけどよ」

「ボクの可愛い子に手を出した以上、宣戦布告。受けて立つ」

「……一応ツッコんどくけど、お前のじゃねぇからな?」

 呆れた様子で言うギンジ。


 今回破壊されていた橙色のアンドロイドは、見ず知らずの機体というわけではない。

 警察が治安維持やパトロール、地域への奉仕などのために運用していた機体で、ナオもその運用に関わっている。

 個体名は【R12】。ナオのお気に入り機体の一つで、「アーちゃん」と呼んで頻繁に活用していたものなので、「ボクの」と言いたくなるのもわからなくはない。が、まかり間違ってもナオの所有物ではない。


「……ま、嬢ちゃんが本気出してくれるってならそれを止める理由はねぇが」

 この華奢で小さな少女に秘められた能力については、短い付き合いながらよく知っている。どんな理由であれ、本気を出してくれるなら頼もしい事限りない。

「……AIだのアンドロイドがらみ以外も、毎度それくらい本気になってもらえると助かるんだがな……」

 ギンジが軽くぼやくが、ナオはまるで聞く耳を持ってくれない。


 才ある人間にはありがちな話ではあるが、ナオの関心と行動にはムラが大きい。

 アンドロイドがらみの事案なら大抵は関心を持って動いてくれるが、今回の破壊魔の件についてはこれまでさほど気合いの入っている様子はなかった。

 興味がなければとことん動かない。それがナオという人間だ。

 そういう意味では今回はナオに縁深い【R12】が破壊されてくれて助かった、とギンジは思う。――そんな事をうっかり口にしようものなら即座に絶縁状を叩きつけられるだろうが。


「しかし……わかりそうなのか?」

「むー……」

 ギンジの言葉に、途端に渋面になるナオ。

「ここまで綺麗に痕跡を消されると……」


 プライベート持ちによる犯行であったとしても、通常であれば犯人の特定はできる。

 今回のようにアンドロイドが破壊された場合であれば、通常はアンドロイド側の視覚その他センサによる記録があるし、犯行時に周囲に人がいればその人のプライベート情報から犯人を割り出す事も可能だ。


 他にAIたちが街中にくまなくばら撒いている「視覚」による監視データから解析するなんてこともできる。プライベート持ち本人の情報は監視ログに記録されないが、「プライベート持ちがいた」という空白部分は残る。その空白を時間軸に沿って解析すると、誰がそこにいたかはほぼ推定可能だ。


 しかし今回の一連の事件では、その推定に必要な情報が、全て丁寧に潰してある。

 犯行はいつも人通りのない場所で行われていて、目撃者もいない。

 アンドロイド側に記録された情報は、犯行の内容から分かる通り綺麗に破壊済みだ。


 AI達の「視覚」監視ログのほうも、プライベート持ちがいたであろう痕跡は確かに現場にあるのだが、服装をこまめに変え各種デバイスを使って人物を特定しにくくした上で、AIが監視できないプライベート空間をいくつも経由して現場にたどり着いているようで、その痕跡を辿ろうにもうまく辿れないのだ。


「壊されたアンドロイドも共通点ないし」

「古めの機体が多いかな……ってくらいか。今のところわかってんのは」

「ん。でも大丈夫。アーちゃんの仇は必ず取る」

「嬢ちゃんがそう言うなら大丈夫だとは思うがよ」

 ナオが本気を出すというのなら、この事件はきっと近いうちに解決するだろう。

 それだけの実績と能力を、この小さな少女は持っている。


 とはいえ今回の件は少々厄介そうだ。

 長く現場を見てきたギンジの勘がそう告げていた。

 AIの「視覚」の特性などを含め、どう行動して何を潰せばいいかを恐ろしく正確に把握しているというのもあるが、何よりこの得体の知れなさに怖さがある。動機も含め、あまりに犯人の顔が見えない。


 経験上、こういう事件は時間がかかる。

 ナオの能力をもってしても、犯人にすぐにたどり着くのは難しいかもしれない。

 何か、もう少しだけでもヒントがあればいいんだが――

「……どっかから手がかりでも降ってこねぇもんかね」

ギンジはそうぼやいて空を仰ぎ見た。


 ビルの隙間から、なんとも気持ちいい青空が覗いている。

 大気汚染だの何だのいう問題はとうの昔に解決されているが、それにしても今日は空気が澄んでいる。空の青がいつになく突き抜けるように青い。

 そういうえば今日は元旦だったな……と、ギンジは今更のように思い出した。


「ったく、いい天気だな畜生」

 ぐっとひとつ伸びをして、ふぅ、と腹から息を押し出す。

 吐き出した白い息がふわりと空間を霞ませ、消えていくのをひとしきり眺めた後、

「とりあえず、あらかたやるべき事は済んだかね」

 手元のタブレットに目を落とし、念のため調査漏れが無いかを一通り確認した。

 抜け漏れはなさそうだ。


「ったく元旦の朝っぱらから仕事とは、厄介な1年になりそうだぜ」

「そね」

「ま、お陰で面倒くせぇ正月の挨拶なんかをすっ飛ばせて助かったがな。年に一回しか会わねぇガキ共にお年玉とかやらなくて済んだし」

「駄目な大人」

「仕事じゃあしょうがねぇよな。……来年もそうするか」

 悪い笑顔を浮かべながら軽くウィンクして見せるギンジに、半眼になるナオ。


「そいやお前さんのいつもの相棒は?」

 普段であれば、ナオはこういった現場には必ずハルミというアンドロイドを連れてくる。ギンジがこの現場に到着し、一人でいるナオを見た時には驚いたものだが。

「正月。ハルミさんお休みに決まってる」

「まじかよ」

 さも当然のこと、とばかりに返してくるナオに、

「……俺の扱いひどくねぇか?」

 軽くむくれるギンジ。

「来なくてもいいって言った」

「やたら大袈裟で否応なく出てこざるを得ないような緊急アラート飛ばしてきやがったのはどいつだよ。「来なくてもいい」ってのも最後のほうにちらっと書いてあっただけであんなの気づくか」

「気づいてるじゃん」

「こっちに向かってる途中にAIに言われてやっと気づいたんだよ」

「アーちゃん壊されたら超緊急事態だし仕方ない。ギンさんいないとこういう事できないし」


 ナオは未成年なのもあって、警察の人間ではない。外部の協力者、という扱いなので、ギンジのような警察側の人間が一緒にいないとこういった現場の調査では一定の制限がかかるのだ。

「ったくこの不良娘が……」

「不良中年に言われたくない」

 ああ言えばこう言うナオ。

 今年もこの恐ろしく頭の回る少女と共に、よく分からない厄介事に巻き込まれていくんだろう。それが楽しみでもあり、怖くもあり。

「ま、今年もよろしく頼まぁ」

 ギンジがそう言って、現場の後片付けに向かった、その時だった。


 頭上から、ガコンという金属音がかすかに聞こえた。

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