第3話

「ずっと前、タイトルも分かんなくて、どこにあるのかも検索できないんだけどさ、大戦前の、空の写真静止画像を見たんだ。高い、どこまでも高い建物と、それ以上に果てしなく高い、青空。そして、旧時代の建物からのぞいた、光り輝く空……あんな風に、自分達の暮らしている場所から、空が見えるなんて、すごく羨ましかった」


「……外には、建物も、街も、ないわ、よ」


「分かってる。でも、空がある。そこに空があるなら、いつか、この場所からも見られるかもしれない。それを、確かめたい」


「……確かめて、どうするの? このドームからは、絶対見られない」


「今は、見られない。でも、未来は、分からない。外の環境がどうなっているかも、実際は全く知らされていない。もしかしたら、本当は人が住めるのかもしれない」


「それは! 危険思想してはならない考えよ!! 外部情報は提供されたもの以外、むやみに……」


 必要な情報は、必要と判断された情報は、きちんと与えられる。


 行政は、個々の興味関心に応じて、自由に情報記録映像アーカイブにアクセスすることも許可している。


 それ以上を知ろうとすることは、社会の害悪なのだか……ら……。


「大丈夫。僕は、もう行政関係者だよ? どんなに思考統制しても、僕みたいなのが出てくる。けれど、行政の基準をクリアしていたから、逆に取り込まれたんだけど」


「……とり、こま、れた?」


「行政も、むやみに情報統制しているわけではないよ。それなりに考えている。ただ、AIに支配されたままの人間には、自由は毒なんだ。是か非か、しか判断材料を持たない、働く真似事をして満足している人間には、ね」


 毒……? 自由……? 


「だけど、キミは違う。支配されてはいるけど、考える力がある。……今回の採用に当たって、僕には一つの権限が与えられたんだ。……自分のバディを、選出スカウトする権限がね。キミは、……どうする?」



 何を、とも言わず。


 けれど、通じた。


「……私を、選んでほしい」


 私の目の届かないところで、原因も分からず、事故に遭うくらいなら。


 


 せめて、私の目の前で。



 思想も、情報も、理想も、どうでもいい。



 君と、ずっと、一緒に、いたい。



 ……それが、私の本音。



「そう言うと思ったよ。キミは、いつも、僕を受け入れてくれたから。だから」




 君は、私の大好きな君は、ほんの少し目を細めて、私を見つめる。


『いつか青空を見たい』と夢を語る時と、同じ、極上の笑顔で。




「だから、僕はキミと一緒に、見たかったんだ。ドームの外には、きっと、見たこともないような青い空が、広がっている、はずだから」




 きっと、それは、美しいに違いない。


 君の言うように果てしなく青く、高い、空。


 その空が、君の心を捕えて離さないように、私を捕えて離さない、君の笑顔のように。






「僕と、行こう。あの、青空のもとへ」



 



 


 

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僕と、行こう。あの、青空の下へ 清見こうじ @nikoutako

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