第2話

「ドーム外での業務が身体に影響するなんて、迷信なんだって」


 高性能保護服と、高性能放射線遮断機能付きホバーカーで、ドームと同等以上のバリアに守られている、それは知ってる。


「分かってるよ。授業で勉強したし」


 ドーム外での業務は、放射線を浴びて生殖機能が失われるとか、何かしらの疾患を誘発するだとかは、旧行政時代の遅れた知識と偏見なんだって。


 もちろん、何の保護もしないで外に出れば、それらを真実にしてしまうかもしれないけど、それらの装備無してドームから出る無謀なことなんて、誰もしない。


 除染装置のある専用エントランス以外から出入りすることは不可能だし、保護装備を着けていなければAIチェックが通過を許さない。


 生涯をほぼ自分の属する都市ドームで過ごす一般人がそこまで詳しく知る必要があるのかといえば、たぶんない。


 なのに教えられるのは、ドーム外への任務に就く人間への謂われない偏見を解消するためなんだろう。


 その放射線まみれの「外」から運ばれてきた物資は喜んで享受するくせに、そこで働く人間には偏見を厭わない。


 本当に、人間って、おかしな生き物だ。


「だったら……」


「放射線が危険だなんで、今さら言わないよ。だけど、運送担当ロジスティクスの事故発生率は、ドーム内業務の30倍だよ?!」


「それは、ドーム内で事故がなさすぎるんだよ。それに無傷や軽傷も含まれているし。車体損傷くらい……」


「車体損傷が、ドーム外の安全にどれだけ影響するか分かっているでしょう?」


「それは大丈夫なように安全装置が……」


 私を安心させようと、君は分かりきった説明を重ねる。


 分かりきっている、分かってるよ、そんなこと。


 実際は、後遺症や生命に関わるような事故は、せいぜいが2ないし3倍だって。


 でも、その「わずか」な重大事故に、君が遭遇しないとは言えない。




「……見たいんだよ。空が。記録映像アーカイブでしか見たことがない、青空を。自分の目で、見たいんだ」



 ドームの外には、青空があるという。


 さすがに規模の大きな中核都市トーキョー辺りは、今もまだ空は暗いらしいけど。


 元々、遠隔地に散らばっている小規模都市オアシスの周辺は、青空を取り戻している、と聞く。


 ただし、ドームの遮断機能強化のために、ドーム内から外を見ることはできない。

 

 最初期に造られた中核都市トーキョーや先行で建設された小規模都市オアシスのいくつかは、景観を意識して、ドームに超強化型クリア素材を使っているから、外が見られそうだけど、有害物質遮断のためにスモークが掛かっていて、実際の様子は見られないという。


 まして、取り急ぎ作られた後発型のこのオアシスは、景観なんて配慮していないから、ドーム全体が武骨な金属で被われている。


 立体照明映像効果プロジェクションマッピングで、意識しなければ目に入らないし、時間や季節に合わせて雰囲気も変わる。


 ただ、空だけは映らない。ドームの天井が目に入らないほどの高度だからなのかもしれないし、予算の関係なのかもしれない。


 だから、青空を見たいという君の気持ちは分かるし、だから、今まで否定してこなかった。



 子供の、単なる夢だと、思っていたから。

 






 

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