第8話 マッチング成立!

小さな世界。

優しくない世界。

暗い世界。

苦しい世界。


暖かい世界にいた。

でも冷たい世界に投げられる。


そして狭い世界に入り。

そして死んだ。


時の女神は思った。


享年0歳のイチ。


他の異世界の転生者とは違う。

前世の記憶はほぼない。


その前世は1年も生きていない。

生前0歳。


それが彼なのだ。

彼は文字通り生まれたての赤ん坊なのだ。


時の女神はまるで母親のように感じていた。


どんな大人になるか……

どういうふうに育てるか。


勇者にならなくてもいい。

英雄にならなくてもいい。


ただその加護を。

ただその未来を。


可能性と信じて。


「美味しい」


イチは小さく笑う。


「もう、ほっぺたをこんなに汚して赤ちゃんみたいですね!」


クリスティーヌが笑いながらハンカチでイチの頬を拭う。

メルがそれを見て小さく笑う。


「なんかクリスティーヌ、お母さんみたいやな?」


ハデスも笑う。


「いや、そこは彼女じゃないのか?」


アースロックは苦笑い。


「だってねぇー」


メルがハデスの顔を見る。


「ねぇー」


ハデスも笑う。


時の女神はわかっている。

これはイチが放つ赤ちゃんオーラが根源だろう。

赤ちゃんに対しては人は優しくなれる。

魔王と魔獣もいるけれど……

優しくなれるのだ。


それがイチの魅力なのかもしれない。


「さて社長。

 ご飯を食べたらお仕事ですよ?」


アースロックがそういうとメルは笑う。


「ふ……

 書類ならもう済んでいるわ」


「え?」


メルの言葉にアースロックが驚く。

アースロックは書類を見る。


「凄い」


ハデスも驚く。


「ハウリングドラゴンの件は心配ね。

 村の被害も大きいし。

 でも、狩ってくれる人は――」


「ハウリングドラゴンは声まで美味しいんですよ!」


クリスティーヌがよだれを垂らす。


「ハウリングドラゴンの牙はいい魔道具ができるんやで!」


「えー、でも牙は食べれないですよ?」


「魔道具にしたいから食べんでええねんで?」


「あー、なるほど!」


クリスティーヌが笑う。


「ってことは?」


メルが期待の眼差しで二人を見る。


「引き受けます!」


クリスティーヌがうなずく。


「素材は頂くけどな!」


ハデスも笑う。


「マッチング成立!」


メルは目を輝かす。

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