第7話 24時間戦うおじさん

「妻も子どももいないおっさんさ。

 バット(武器)を持たないおっさんは。

 マントを持たないおっさんさ。

 空は飛べないおっさんさ。

 なのにクビはすぐとぶのよ、おっさんは。

 かなしみのおっさん」


 そう歌う男がいる。

 かつて男には家族がいた。


 しかし、自ら魔王ベルゼブブという存在が現れ……

 全てを奪っていった。


 男には、妻も子もいない。

 ベルゼブブに殺された。


 復讐を誓った。

 敵討ちを誓った。

 しかし、誓うだけではなにも産まれない。

 復讐をしたところで家族は戻ってこない。

 なぜならそれが、死なのだから。

 そしてなにより……

 そしてなにより……

 男には凶悪と戦う力がない。

 だから歌うしかない。


「妻も子どももいらいおっさんさ

 バット(武器)も持てないおっさんが。

 マントを持たないおっさんは。

 空は飛べないおっさんよ

 なのにクビはすぐとぶおっさんじゃ。

 絶望のおっさんさ」


「よう」


 そういって近づいてきたモノがいた。

 それは鰤谷雪尾。

 男が働く製薬会社の社長だ。


「社長?」


「24時間働く力は欲しくないか?」


「24時間ですか?」


「ああ、永久に働ける力だ。

 私にはそれをお前に授ける力がある」


「社畜ですか?」


「そうだなある意味社畜だな。

 会社のために働くのではない。

 社会のために働くんだ」


「社会?なんのために……でしょうか?」


「ベルゼブブを倒すためにだ」


「え?」


「秘薬がひとつできたんだ」


 社長は、そういってひとつのカプセルを手のひらに乗せた。


「これは?」


「これは、最強の勇者を作ろうとしてできたものさ。

 これで、第二の勇者を作る予定だった。

 この秘薬を飲めば、勇者のようなの力は得れないが。

 目の前の悪を倒すくらいの力は得れる。

 だが、失敗すると死ぬ」


 男は小さく笑う。


「いいですよ。

 死ぬのもいい。

 死んでもいい。

 失ったものはたくさんある。

 これから失うものがない。

 だから僕は!!」


 男は、雪尾から秘薬を受け取るとそれを口の中に入れた。

 そして、ゴクリと音を立てて飲み込んだ。


 男の胸から溢れる感情。

 憎しみでもない、苦しみでもない。

 優しさでもない、愛でもない。

 それは、まさに太陽。

 天が平等に照らす温もり……


「おお、これは……」


 雪尾の胸が熱くなり涙があふれる。


「この暖かい感情これは」


「まさに炎!

 まさに太陽!」


 歌が溢れる。

 歌が溢れる。


「妻も子どももいないサラリーマン。

 バットを持たないサラリーマン。

 マントを持たないサラリーマン。

 空を飛べないサラリーマン」


 男の心があふれる。

 涙があふれる。


「お前の名前は、リーマンだ!

 優しく高貴な女性のような心を持った男!

 お前は勇者!サラ・リーマンだ!」


 雪尾は、そう言って叫ぶ。

 サラ・リーマンが誕生した瞬間だ。


「リーマン……

 それが私の新しい名前」


「そうだ。

 お前の太陽みたいな心の炎で敵を倒すんだ」


「ぐるるるるるる。

 まだ人間がいるぞ」


デス・デーモンの群れがリーマンの周りを囲む。


「社長!やれる気がします」


「ああ。

 お前ならあの程度の悪魔。

 瞬殺だ!」


「何を言っているんだ!

 こう見えても俺たちは中級悪魔さえも恐れるデス・デーモンだぞ!」


「でも、私は恐れない」


「ああん?」


リーマンは、手に魔力を篭める。


「これが魔力……」


雪尾が小さく笑う。


「なんて温かい魔力だ」


「太陽の力を君へ……

 サン・アタック」


リーマンがリーダー格のデス・デーモンにパンチする。

そのデス・デーモンは消滅した。


「な、なんだと?」


「押せ!数で押すんだ!

 俺たちの戦力は100人いる!!

 ふたりで100人の相手など――」


「光はすべてを包み込む。

 サン・フラッシュ!」


リーマンの周りが光り輝き。

デス・デーモンの体を焼き尽くす。


「流石は太陽。

 敵のみを攻撃する。

 それどころか……俺の腰痛が治まってきた。

 味方には治癒効果があるのか!」


雪尾は驚く。


「か、かみさまーーーーー」


デス・デーモンたちはそう叫びながら消滅した。

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