第10話 師匠
――アーサラ・レイン。
私の師匠のフルネームだ。
弟子になった初日、アーサーと呼ぶように言われ、それ以来ずっとアーサー師匠と呼んでいる。
そう目の前に居る、物置小屋に閉じ込められた人は私の師匠。アーサー師匠。
癖のある赤く燃えるような赤い髪を一纏めに縛り、お気に入りだというボロボロの古いコートを着ている姿は間違いようがない。
数日前、私にこの屋敷を譲った師匠が此処に居る。
本来、此処に居ない人が居る。
どうして此処に居るの?
訳が分からず固まる私と驚愕で固まるアーサー師匠、先に口を開いたのは師匠だった。
「サラ!? アンタ、どうして此処に!?」
「え、あ、あの・・・・・・」
居る筈のない師匠に頭の処理が追いつかず上手く言葉が出てこない。
「二人とも落ち着いて、とりあえず安全地帯に移動しましょう。そこでゆっくり話しましょう」
――安全地帯(という名の地下室)。
「ふ~ん、つまり、アタシの偽物がこの屋敷を貴方に譲るって言ってきたって事ね」
「・・・・・・はい」
私は師匠に屋敷に来た経緯を話した。
話を聞いた師匠の顔は険しい。
数日前から屋敷に閉じ込められていたのに私にこの屋敷を譲ったのだから。
本来なら不可能な事が起きている。
師匠からすれば自分の偽物が現われた事になるから険しくなるのはしょうがない。
「本当にアタシだったの?」
「はい。見目も声も師匠でした・・・・・・」
「そう。アタシの偽物がアンタを此処にね。それでアンタはこの屋敷にノコノコやってきて、彼奴に助けられたってわけね」
師匠は私の後ろ、壁にもたれかかっているユエさんを指差す。
ユエさんは指差されたことを気にすることなくニッコリと笑っている。
なんだろう、とても空気が重く感じるんですか。
「そ、そうです。殺されそうになったところを・・・・・・」
「ふ~ん。ねえ、ユエって言ったけ?
アタシの弟子、助けてくれてありがとう」
あの重い空気が一変したのを感じた。
ユエさんを疑っていた師匠がユエさんに御礼を言った!?
御礼を言われたユエさんは目を丸くして驚いている。
「アンタを疑っていたアタシからの御礼に驚いた?
サラはアタシの弟子なの。だからサラが嘘を言わない子だって解ってる。貴方に助けられたってのは嘘じゃない。
この子の師として御礼を言うのは当然でしょ?」
し、師匠が、あの師匠がまともな事を言ってるだと!?
「サラ~、アンタ、アタシがまともな事を言ってるって思った~?」
「い、いえ、おもってまひぇん」
心の中いや私の顔に出ていたのを察知して思いっきりほっぺをムニムニされる。
痛くはないけど喋りにくいので止めてほしいです。
「で、ユエさんとやら、この後どうするつもり? 助けてくれた事だし屋敷脱出する為に協力してあげるわ」
「・・・・・・ご協力感謝するわ」
師匠の上から目線の言葉にユエさんは呆れているのかムッとしているのか解らない表情と声で返した。
これが師匠のデフォだからな後でユエさんにフォロー入れなきゃ。
あ! 大事な事を忘れてた!
「あの、私、この屋敷の元持ち主に仕えていたという執事の幽霊からその元持ち主が書いた錬金術、除霊道具とか書かれたレシピ本を渡されまして・・・・・・」
怖ず怖ずとレシピ本を見せると師匠とユエさんはマジマジと見る。
一見、古くてボロい本だけど立派なレシピ本なんですよ!
「錬金術のレシピ本?」
「はい、そうですよ。この屋敷の元持ち主だった錬金術師が残したレシピ本です」
「何処で渡されたの?」
「執事の部屋です。ほら、私がメイドの幽霊に襲われた廊下の奥がそうです」
「・・・・・・執事の部屋ね」
ユエさんが考え込んじゃった。
何か思い当たることでもあるのかな?
「錬金術のレシピね~。古くてボロいけど中身は大丈夫そうね。そうだ! この際、此処で除霊道具作ったら? アンタ、武器持ってないでしょ?」
師匠からは此処、元工房だった地下室で除霊道具を作るよう提案された。
おあつらえ向きにしっかりとした錬成釜もあるし作れるは作れるけど。
「でも、材料が揃ってないので大した除霊道具作れませんよ」
そう作りたいけど材料がない。
でも、武器を持ってないの心苦しい。作れるものがあったら作ってみる?
『みゃあ~』
どうしようか考えてたらトラちゃんが何か持ってきたようだ。
今度は何を・・・・・・。
「掃除機?」
トラちゃんが持ってきたのは掃除機だった。
おまけ
サラ→サラ・ブレイズ
ユエ→ユエという名は実の名前じゃない
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