第5話 執事幽霊のセバスチャン

 顔が半分に崩れ、脳は露出、右手が巨大な園芸ばさみと一体化している男。


 すでにこの世のものじゃない男に私は顔を引きつらせ。


「ヒッ!」


 小さく悲鳴をあげた。

 その声で男は私の存在に気付いてしまった、しまったと思い、口を塞ぎ、男の方を見ると。


【あ、ああああああ~!! 侵入者!! しんにゅうしゃあああああああ!!!!!!】


 叫びながら私に向かって右手、園芸ばさみを向けながら襲いかかってきた。


 逃げなきゃ!!


 本来なら恐怖で動けなくなるかもだけど火事場のバカ力というのか私はその場から走った。

 男は足をズルズルと引きずっている、そのせいで走ることが出来ないようで私は男から逃げ切ることが出来た。

 ニャンドラゴラも一緒に逃げたよ。

 なんで初対面の私と一緒に行動するんだろう?


 無我夢中に走っていたら、いつの間にか温室から出ていた。

 暖かかった温室から出たからか肌寒さを感じ、思わず体を震わす。


「あ、彼奴は・・・・・・?」


 あの男がまだ追いかけてくる事を考えて後ろを振り向く。


 男は居た、だけど、入り口近くに私が居るにも関わらず男は興味を失ったかのようにスッと攻撃態勢をとくと温室へと戻っていった。

 なんなの一体?


「彼は温室から出られないのですよ」

「うわっ!!」


 背後からの声に驚き、振り向くと。


「これは失敬。私、生前、この屋敷に務めていた執事のセバスチャンと申します」


 半透明の初老の男性、セバスチャンが丁寧にお辞儀をしてきた。




「冷めないうちにどうぞ」

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

「トラ様もどうぞ」

『にゃ~』


 あの後、セバスチャンさんに連れられてボロい屋敷の中とは思えないほど綺麗なセバスチャンさんの部屋でお茶をご馳走して貰っている。

 どうして? って聞かれても解らないけどトラ様と呼ばれたニャンドラゴラがセバスチャンさんに懐いてたから大丈夫かなと。

 淹れてくれた紅茶は紅茶の事をよく知らない私でも良い香りだと解る、一口飲むとほわんと暖かくなる。


「気に入りましたかな?」

「あ、は、はい! とても美味しいです!」

「それは良かったです」

「あの、宜しければ、私を追いかけた人の事を教えてくれませんでしょうか・・・・・・?」


 思い切って温室の男の事を聞くとセバスチャンさんは快く話してくれた。


「先程、貴方様を追いかけた者はこの屋敷の庭師でした。屋敷の主であったアリシア様から錬金術に使われる薬草の栽培を任せられたからでしょうか温室に並々ならぬ思いを持っているようで」

「それで温室から出られないんですね」


 どうやら、あの男はこの屋敷の主であったアリシアという人物から温室を任せられた事で温室から出られないようだ。

 出られないじゃなくて出たくないのかもしれない。きっと、あの温室は男にとって大切な場所なのだと思う。


「まあ、成仏できず屋敷を彷徨っている私も同じようなものですが」


 セバスチャンさんは苦々しい笑顔でそう言うと屋敷の主だったアリシアの事を話し出した。


 50年前、屋敷の主であった錬金術師、アリシア・ローランドはこの屋敷である研究を行っていた。

 だが、その研究は上手くいかず、段々と切羽詰まるような表情をするようになっていったという。

 だけど、セバスチャンさんは研究がどうなったのか知ることなく病でこの世を去った。


「幼い頃からアリシア様を見ていたからでしょうか心配で結局どうなったのか知りたくて成仏できず彷徨っているのです」

「確かにそれは心残りになりますね」


 セバスチャンさんの話を聞いて同情すると共にアリシアという錬金術師がどんな研究を行っていたか気になった。


 錬金術師は研究職。

 だから、日々、新しい錬成薬や錬成道具を生み出す事に躍起になる錬金術師は多い。

 私もいつかはと思っているけどまだまだ新人なので無理。


 いつかの事を考えているとセバスチャンさんが私にあるお願いをしてきた。


「そういえば、貴方様は錬金術師なのでしたっけ?」

「はい、そうですけど」

「それならばお願いがあるのです」

「お願いですか?」

「これを、アリシア様の錬金術のレシピ本を受け取って欲しいのです」


 そう言うとある一冊の本を私に渡してきた。

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