第2章 操り人形

第8話 案外普通

 祇園寺ぎおんじが引き起こした私達のクラスの騒動そうどうは、気が付けば学年中がくねんじゅうに広まってて、公開処刑こうかいしょけいって呼ばれるようになってた。

 物騒ぶっそうな名前だと思うけど、あながち間違まちがってない気もする。

 面白おもしろいのは、だれだれ処刑しょけいしたのかについて、誰も言及げんきゅうしないことかな。


 そんな公開処刑こうかいしょけいがあった翌日よくじつ花楓かえでふく当事者とうじしゃの3人が、学校がっこうを休んだ。


 佐藤さとう間違まちがいなく、騒動そうどうのショックが原因げんいんだと思う。

 祇園寺ぎおんじは、聞くところによると、学校側がっこうがわから1週間の自宅謹慎じたくきんしんを言いわたされてるらしい。

 そして花楓かえではと言うと、なぞだ。

 一応いちおう、朝いちにテンションの高いチャットが飛んで来たから、元気ではあるらしい。


 とまぁ、花楓かえでないおだやかな一日を満喫まんきつした私は、帰路きろく。

 部活ぶかついそしむわけでも無く、友達ともだちと遊びに行くわけでも無い。

 そんな放課後ほうかごに少しもったいなさを覚えながら、バスを降りた私は、バス停に見知った姿を目にする。


「やほ。今日の学校がっこうはどうだった?」

祇園寺ぎおんじ佐藤さとうが……それとアンタが居ない以外はいつも通りだったけど。って言うか、なんでここにいんの?」

「え? スーミィの家に遊びに行こうと思って」

「急だなぁ……」

「でもスーミィ、今日は元々もともと予定よていは無かったでしょ? だったら、趣味しゅみものを見せてもらいたいなぁって思って」

「……まぁ、別にいいけど。先に言っとくけど、何も出せるもの無いよ?」

「それじゃあ、そこのコンビニでお菓子かしもの買って行こう!」

「ん。分かった」


 この強引ごういんかんじ、なんかれてきちゃった自分がるんだよねぇ。

 流石さすがれるのがはやすぎる気もするけど、まぁ、べつこまるわけでも無いし、良っか。

「スーミィって、うつわが広いよねぇ」

「広いんじゃなくて、ひびれてんのよ。そんでもって、れだしてるのに気づかないだけ」

独特どくとく表現ひょうげんだね」

どくを込めたつもりだったんだけど?」

どくらわばさらまでって言うでしょ?」

「言うけど、意味いみわかんない」

「ワタシも、ちょっと意味いみ分かんなくなってきちゃった」


 2人して失笑しっしょうしながらコンビニに立ちった私達わたしたちは、適当てきとうにお菓子かしと飲み物を見繕みつくろって、私の家に向かう。

 その道中どうちゅう、大きなエナメルバックをかたからげた男子だんし高校生こうこうせいが、私達を速足はやあしいていく。


 その男子だんし後姿うしろすがたに、どこか見覚みおぼえがあると思った時、となりを歩いていた花楓かえでが小さくつぶやいた。

「同じクラスの山田やまだ君だね」

「どおりで、どこかで見たことあると思った」


 り上げられた頭と気難きむずかしそうな表情ひょうじょう、そしてパンパンにふくれたバックをげている彼の姿すがたは、何度も教室で見たことがある。

 確か、彼は野球部やきゅうぶだったはず。

 だとしたら、今日の部活は休みだったのかな?

「どうだろうね」


 みじかくそうげた花楓かえで視線しせんを向けた後、山田やまだ後姿うしろすがた見送みおくった私は、自身の家に向かうために脇道わきみちに入った。

 当然とうぜんすでに道を知ってるであろう花楓かえでも、まようことなく着いて来る。


 そのまま家に辿たどり着いた私達は、玄関げんかんに足をみ入れた。

「ただいま」

「おじゃましま~す!」

 まぁ、両親りょうしんはどっちも仕事しごとに出てるから、だれないんだけどね。

「へぇ~。ここがスーミィの家なんだぁ」

「見たことあるでしょ」

「見たことは無いよ。まぁ、知ってはいたけど。知識ちしき実感じっかんちがうのだよ、分かったかい? スーミィ」

「それはそれは、ありがたきお言葉ことばですな」

こころがこもって無いなぁ~」

「込めてないのだよ。分からなかったのかな?」

「むぅ」


 板張いたばりの廊下ろうかあるきながらそんなやり取りをわした私達は、まっすぐに階段かいだんを上がって私の部屋へや荷物にもつろす。

「とりあえず、手洗てあらいだけしといて。場所ばしょは分かるでしょ?」

「ほ~い!」

 あわただしく階段かいだんりていく花楓かえでの後について、脱衣所だついじょに向かった私は、洗面台せんめんだいで手を洗う花楓かえで背後はいごに立った。

 かがみうつる彼女は、一生懸命いっしょうけんめいに手をあらってる。


 そんな姿すがたを見ていた私は、ふと、とある事実じじつに気が付いた。

 今、二人きりなんだなぁ。

「ちょっと!? 何を考えてるの!?」

べつに? 事実じじつ認識にんしきしてただけだけど?」

「それはそうだけど!! なんか、ちょっと警戒けいかいしちゃうじゃん」

「それはさすがに警戒けいかいしすぎじゃない?」


 あわてて手をあらい、そそくさと逃げ出していく花楓かえで見送みおくった私は、手を洗った後、部屋に向かった。

 りてきたねこみたいに大人しく、部屋へやの真ん中に正座せいざしてる花楓かえで

 なんか、こうしてみると滑稽こっけいな気がする。

「なんでよ!?」

「だって、私の部屋へや知識ちしきとしては知ってたワケでしょ?」

「そうだけど、さっきも言ったじゃん! 知識ちしき実感じっかんは違うんだって!」


 ってことは、こころが読める花楓かえで案外あんがい普通ふつうの人と変わらないってことなのかもしれないなぁ。

 なんてことを考えた時、私はとあることを思いついた。

 直後ちょくご花楓かえでかおを赤くめ上げる。


「ちょ、スーミィ!?」

「どうしたの?」

「どうしたの? じゃないよ!! 変なこと考えないで!」

「え? 私はただ、少し気になることがあっただけなんだけど?」

「いいからぁ!! いつもからかってばかりでごめんなさい!! もうやらないから、変なこと考えないでよ」


 花楓かえでがエッチなことを初めて知った時、どう思ったのか聞こうと思っただけなんだけど。

 予想よそう以上いじょう面白おもしろ反応はんのうを見せてくれるなぁ。

「スーミィのイジワル」

「ごめんごめん、もうやらないから」


 意地悪いじわるはここまでにしておこうかな。

 これ以上やっても時間がもったいないし、わざわざ花楓かえでたずねて来てくれたわけだしね。

 押しかけて来たとも言えるけど、それにもちゃんと理由りゆうがありそうだし。


「で、取りえずは本題ほんだいから話す? それとも、本当にみ物を見に来たの?」

「ぅぅ。本題ほんだいからがいいかな」

「そ?」

 まだ私のことを警戒けいかいしてる様子の花楓かえでは、小さく深呼吸しんこきゅうをした後、気を取り直して話し始めた。


早速さっそくで申し訳ないんだけど、次の事件じけんが起きる前に準備じゅんびをしておきたいんだ」

つぎ事件じけん? ってことは、もう目星めぼしがついてる感じ?」

「まぁ、大体だいたいはね」

具体的ぐたいてきに教えてもらえない?」

「うん。次に危険きけんせまってるのは、山田やまだ哲平てっぺい君だよ」

「さっきの……」

「そう。感情かんじょうもなんとなく分かってる。彼が今、とても強く感じてるのは、人をあやつりたいって願望がんぼう

あやつりたい? それはまた、人聞ひとぎきの悪い感情かんじょうだね」

「そうだね。でも、誰でもいだくような、ありがちな感情かんじょうだと、ワタシは思うよ?」

「アンタが言うなら、まぁ、間違いなさそう」


 花楓かえで言葉ことば賛同さんどうした私は、彼女の説明せつめいに耳をかたむけることにした。

 これからきるであろうこと、それを止めるあん、そして、私にやってしいこと。

 それらを聞きながら、私はあたまの中で情報じょうほう整理せいりする。


 抹茶まっちゃオレをおごってもらったんだから、真面目まじめ手伝てつだわないとダメだよね。

 サボろうなんて考えるのは言語道断ごんごどうだんだ。

「そうだよ? サボるなんて、ダメだからね?」

「分かってるって」

 そう言いながら、私はテーブルに広げられたチョコ菓子がしを口に放り込んだ。

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