歌の体、六義と六体

六義りくぎ】漢詩の六義、即ち『詩経』序に「詩有六義焉」とする「風(地方の民謡類など国ぶりを表す)」「雅(正しい政を褒めたたえる)」「頌(徳を褒める)」「賦(物事をありのままに述べる)」「比(物事になぞらえて心を述べる)」「興(目に触れる自然の感興を詠む)」の六種に倣って和歌においても立てられた六種の風体。『古今真名序』には「和歌有二六義一、 一曰風、二曰賦、三曰比、四曰興、五曰雅、六曰頌」とあり、仮名序は「そもそも、うたのさま、むつなり、からのうたにも、かくぞあるべき」として「そへうた」「かぞへうた」「なずらへうた」「たとへうた」「たゞごとうた」「いはひうた」の六体とする。


【長歌】和歌六体りくたいの一。五・七の音を連ねて止めを七・七で終わる歌体。


【短歌】和歌六体りくたいの一。五・七・五・七・七の三十一文字で詠まれる歌体。


旋頭歌せどうか】和歌六体りくたいの一。五・七・七・五・七・七の音数律から成る六句体の和歌。下三句が上三句と同じ句形を繰り返すので「頭をめぐらす」の意でこう呼ぶ。

*順徳院『八雲御抄』には五・七・七・五・七・七の形にならない歌も旋頭歌として載る(なお字音数を比較する便宜で総て平仮名に開いた)。


  うちわたすをちかたびとにものまうすわれ

  そのそこにしろくさけるはなにのはなぞも

  

  かのをかにくさかるをのこしかなかりそ五(字余り)

  ありつゝもきみがきまさむみまくさにせむ


  あさづくひむかひのやまにつきたてる

  とほづまをもたらむひとはみつゝしのばむ  


  ますかゞみそこなるかげにむかひゐて

  みるときにこそしらぬおきなにあふここちすれ    


混本こんぼん】和歌六体りくたいの一。『喜撰式』では六句体、『新撰和歌髄脳』以降では、短歌より一句少ない歌体として『奥義抄』『八雲御抄』等では四句体とし、他に片歌や五七音を連続させる結句のない偶数形式の歌とする説、五・七・七の三句だけの短い歌とする説などがあり一定しない。

*『喜撰式』には「混本歌 失心人為顕詠耳」として以下の歌を載せる。

  いはのうへに/ねざす松かへと/思ひしを

  あさがほの/夕かげまたず/うつろへるかな


*『奥義抄』には「常歌の一句なき也、七字五字任意、安倍清行朝臣歌云」として以下の歌を載せる。

  あさがほの/ゆふかげまたず/散りやすき/はなのよぞかし

 又五句体あり、三國町歌云、

  いはのうへに/ねざすまつかへ/とのみこそ/おもふ心は/あるものを


*『八雲御抄』には「三十一文字の内一句なき也、又有五句字不足、是一体にてはあれど普通の事にあらず、よみたる事もすくなし」として以下の歌を載せる。

  朝がほの/夕かげまたず/ちりやすき/花のよぞかし

 是はすゑの七字をよまざる歌也、

  岩の小野歌上に/ねざす松かへ/とのみこそ思うこころ/有物を

 是は中の七字十一字ありて、末の七文字なき也、


折句おりく】和歌六体りくたいの一。各句の始めまたは終わりの字に、五音からなる物名もののなの一音ずつを置いて詠む歌体。隠題かくしだいの一。


沓冠くつかむり】和歌六体りくたいの一。折句の一種。十音の語句を各句の上下に置いて詠む遊戯。

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